錚々たる顔ぶれ。
シオンとしては聖域の警護についている白銀聖闘士は何をやっているのかと言いたくもなるが、相手が屈指の実力者では怪我人が出るだけで彼の闘士を抑えられない事は分かりきっている。
それに今、聖域は混乱状態だった。 (致し方あるまい。これが実力の差だ) だが、さすがにミーノスの登場では、警備に付いていた白銀聖闘士の何人かが階段を駆け上がってやって来た。
そして星矢と氷河も武具を付けて現れる。
「何でミーノスが!」 氷河は黒い冥衣を纏う偉丈夫の出現に驚く。 だが、ミーノスは他の闘士に目もくれず、沙織の前でカノンと同じように片膝を付いて礼を行う。
女神に謁見する闘士。 数日前まで死闘を演じていた筈なのに、今の様子は何処か荘厳で穏やかだった。
「我が女主人より女神アテナにこれを……」
そう言って差し出された美しい髪飾りを沙織は受け取る。 「パンドラが寄越したのですね」 「そうです」 「私に何か依頼したい事があるのですか?」
それは静かな対話。誰も声を出さない。 「冥界にて空間そのものが不安定になっており、調査した所デスクィーン島と影響し合っている事が判りました。
つきましては冥闘士のデスクィーン島上陸と空間の安定に関わる作業。 そして冥界に影響を与えるものの破壊。 この三つを行う許可を得たく参じました」
しばらく沙織は髪飾りを見つめる。 水仙の細工が美しい。 そして裏側には、『愛しい娘へ』と彫られている事に気付く。 (これは彼女のモノね)
沙織は双児宮まで来てくれた旧友の姿を思い出す。 海の女神達に引き続き、大地の女神達も聖域と闘士達に全てを託してくれた。 沙織は二つの装飾品を握りしめる。
「貴方達の事は冥妃ペルセポネより話は来ています。 グリフォンのミーノス。貴方達の依頼、承知しました」 そして沙織は彼に冥妃から教えてもらった事を告げる。
「では、デスクィーン島上陸は直ぐでも構いませんが、行動を起こすのは一時間……、いえ、三十分だけお待ち下さい。 その間に冥界側のサポートを万全にしておきます」
空間が歪んでいる以上、戦闘の最中に聖闘士たちが冥界に弾き飛ばされては、お互いに時間のロスでしかない。 生きている人間に空間の不安定さが原因で冥界へやって来られては、それだけで冥界そのものが危うくなりかねないからだ。
「判りました。では、準備が整い次第、私の所へ」 沙織の言葉にミーノスは頭を下げる。 「シードラゴン。貴方もそれで良いですか?」 勝手に決められた事だが、時間が無い事はカノンにも判っていた。
「では、早急に海闘士達を配備します」 海の筆頭将軍は即答する。
この瞬間、デスクィーン島攻略とギガントマキアの幕が切って落とされた。
そして太陽は西へと傾き始めていた。 |