「多分、今の段階でペガサスの聖衣の方が聖闘士の方よりも力が上になってしまったのだろう」
シオンの情け容赦の無い言葉に、星矢は一瞬返事が出来なかった。 「えっ??」 彼は沙織の方を向く。 「それって……、どういう事だ。沙織さん!」
すると沙織は静かに答えた。 「ペガサスの聖衣は私の血で新しく生まれ変わりました。 ただ、聖衣が人に扱える以上の力を得たのであれば、人である闘士に使われる事を良しとしない意識が生まれる事もあります」
だからこそ、神の血で聖衣を作り替える事は最終手段と言っても良い行いなのである。 「……もしかして僕達の聖衣も、いずれペガサスの聖衣と同じような反応を示すという事?」
瞬の問いに沙織は頷く。 「これは過去に例のない事ですから、貴方たちの聖衣が同じような反応を示すのかは私にも判りません。 ただ、こういう事態は覚悟して下さい」
しかし、沙織が考えているよりも星矢はずっとタフな聖闘士だった。
「それじゃ、しょうがないな。 町で武具を借りてくる。
星華姉さんは、こいつを預かってくれ」
彼は再び姉に神聖衣を託す。 そして今まで抜け駆けばかりをする女神の方を見た。 「沙織さん。すぐに戻るから絶対に一人で行動するなよ!」
そう言って彼はさっさと階段を駆け降りる。 沙織はあっけにとられたが、昔を思い出して思わず小さく笑ってしまった。 (星矢は初代のペガサスと同じ事を言うのね)
ただ、前回の時の相手は親友のパラスだった。 そしてこの事が当時の海将軍達の耳に入って、一騒動になったのである。 「それじゃ、俺も借りてくる」
氷河もキグナスの聖衣が恋人の所にあるので、武具を借りに町へと向かった。
一瞬の静寂の後、カノンが沙織の前で片膝を石畳に付いて礼をする。
「女神アテナ。海よりこれを……」 そう言って差し出された首飾りに、沙織の顔が青ざめる。 「これは……?」 「海の皇より、貴方に渡す様託かりました」
その言葉に、沙織は恐る恐る首飾りに触れる。 (これはパラスの首飾り……) 当の女神が不在なのに、此処に有るという理由。 沙織はその意味を直ぐに理解した。
海の女神達が沙織を許したのである。 彼女はカノンの事を見た。 (いえ……、私がカノンを気にかけていた時、彼女達が彼の命を助けてくれていたのだわ。 そうでないと私の小宇宙は、あの場所には届かない。
スニオン岬は海の影響が強い場所だもの……) 表立って手を差し伸べたりはしなかったが、海の女神達はきっとカノンを見守ってくれていたのだろう。
ただ、それを彼に言うのは海の女神達も望まないだろうが……。 「シードラゴン。海皇よりの使者役、ご苦労です。 この首飾りは海の女神達が私を信頼し託してくれたもの。
海の守護者である貴方達海闘士に依頼します。 ギガースが冥府を迂回してデスクィーン島に出現する可能性が出てきたと、冥妃から連絡がありました。
あの島周辺の海を封鎖し、海の空間からギガースが出てこない様協力して下さい」 沙織の言葉に闘士達は驚き騒めく。 カノンは今一度深く頭を下げた。
「海の守護役、有り難く受けさせて頂きます」 そして海闘士達の筆頭将軍が立ち上がった時、 「冥妃様はご無事なのですね」 三巨頭の一人、グリフォンのミーノスが十二宮前の広場にやって来たのだった。 |