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続々・承認 4

そしてラダマンティスはミーノスからゴードンを貸して欲しいと言われる。
自分の部下が居るのに、何故使わないのか。
正直言って承諾出来ない依頼だった。
「どうしてだ?」
すると相手は平然と答える。
「一人で行っても良いのですが、迷宮にミノタウロスが居ないと青銅の巨人タロスを探すのに時間がかかるかもしれないからです。
こういう事は役者を揃えた方が全体の動きが見れます」
先日、デスクィーン島にてミーノスにだけ見えた謎の巨像。
天牢星のゴードンが居ただけで劇的に変化するとは思えないが、見張り替わりに居させるもの良いかもしれないとラダマンティスは別の立場で考える。
今の様な状態でミーノスを単独行動させるのは色々と危険である事と、今回自分の部下では意味がないと本人が思っているのでは、何人部下が居ても仕方がない。
すると話を聞いていたパンドラが、ラダマンティスとミーノスにここに居る様命じると隣の部屋へ移った。
命令された以上、動く訳にもいかない。

そして、5分もしないうちにパンドラは可愛らしいアクセサリーを持って部屋に戻って来た。
「ミーノス。デスクィーン島に行くのならアテナに許可を得るのだ」
そう言って、彼女は水仙の花の細工が施された金色の髪留めを渡す。
「これを渡せ。
とにかくあの島の事は殆ど判っていない。無茶な事だけはするな」
パンドラの配慮にミーノスは、ただ頭を下げた。

ミーノスが去った後、パンドラはいきなり父親の書斎に向かった。
何かしていないと取り乱してしまいそうだというのが理由。
無茶な行動をしなければ、ラダマンティスが止める必要はない。
ところがパンドラは一切何も言わずに本を出しっぱなしにするので、机に積まれた本を今度は自分が片付けなくてはならない。
という事で、いちいちお伺いをたてながら彼は本を元の場所に戻していた。

この様子は新しくメイドとなった婦人達には、
「姫様が勉強されている」
という微笑ましい様子に変換されていた。

「ラダマンティス! あの青い背表紙の本を取ってくれ」
本棚の上の場所を指さされてラダマンティスは手を伸ばす。
「こちらですか?」
「そうだ」
その本は鉱石に関する小さな図鑑だった。
思わず彼は表紙に目を止めてしまう。
「どうしたのだ?」
「あっ……いえ……」
「何だ。ハッキリせぬか!」
パンドラに睨まれて、ラダマンティスは慌てる。
「パンドラ様。
あの少女に渡したのは、冥王様が封じられていた箱にあった……エメラルドではないですか?」
ちらりとしか見てはいないので断言がしにくい。
そして結構な大きさゆえ、違うと言われればそれも納得が出来た。
しかし、彼女はあっさりと答える。
「その通りだ」
そして彼女は図鑑を開いて、ラダマンティスにエメラルドの項目を見せる。
「お主が鉱石について多少でも知識があるのなら話は早い。
エスメラルダという名はエメラルドの別の言い方だ。 言語によって言い方が違うだけとも言えるが……」
再びパンドラは図鑑をめくる。
ラダマンティスは華奢な金色の髪の少女を思い出した。
「それがあの少女と何か?」
するとパンドラは言い難そうな表情をしたが、溜息をついた後、静かに言った。
「あのエメラルドはフェニックスへの礼だ。 聖戦の時に私は奴に依頼したままだからな」
それは冥王の地上を滅ぼす計画を阻止する事。
あの時の判断に報奨を用意する必要があるのかとワイバーンの冥闘士は疑問に思った。
(貴女は既に御自分の命で代価を払ったのではないか?)
しかし彼は言葉を呑み込む。
困惑しているラダマンティスをパンドラは上目づかいで見た後、再び図鑑に視線を落とす。
「フェニックスは礼など望む男ではないから、とにかく宝石を儚げなあの娘のお守りにした。
エリスは箱そのものが欲しかったのだし、私はあの娘が生きていれば……何処でエメラルドが無くなろうと構わない」
その時、書斎のドアがノックされる。
お茶の用意が出来たとの言葉に、パンドラはラダマンティスに本を片づける様言うと図鑑を持って部屋を出ていった。
(不器用な方だ……)
そう思いながら彼は本を片づける。
だが、ラダマンティスは彼女の不器用さがとても可愛いとも思った。