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続々・承認 2

「テティス!」
カノンは驚きの声をあげる。
そして彼は、海底神殿の方で何かあったのかと考えてしまった。
「シードラゴン様!」
人魚姫の海闘士は脇目もふらずにカノンの許へと駆け寄る。
「どうしたんだ?
何かあったのか!」
カノンの剣幕にテティスは自分が海皇の使いでやってきた事を簡潔に告げた。
そして彼女は託された首飾りをカノンに渡す。
「これを女神アテナに渡す様、託かって参りました」
金の細工と青い宝石の輝く首飾り。 カノンはじっと、それを見つめる。
宝飾には興味はないのだが、何故か気になった。
そしてシードラゴンの鱗衣が震えた様な気がした。

貴鬼の方はというとエスメラルダにポットとカップを渡す。
自分が春麗に触れるのは、いけない様な気がしたからである。
「どうしてテティスさんが?」
春麗に尋ねられて貴鬼は社殿前で会ったと説明した。
ちょっとした騒ぎになりかけたのだが、お互いに緊急時という事で過去の諍いは持ち出さないという事にしたのである。
実際、貴鬼はテティスを匿っていたという経験から彼女とこれ以上争う気はなかった。

春麗とエスメラルダはカップに注がれた水を飲む。
とても冷たくて美味しい水だった。
だが、水を飲みながらもエスメラルダは、テティスの事が気になるらしく何度も彼女の方を見ている。
その様子に春麗と貴鬼は五老峰での一件を思い出す。
エスメラルダはテティスの居た部屋に近付かなかったのである。
ふと、テティスが春麗達の方を向いた。
彼女からすれば、顔見知りの方を見たに過ぎない。
しかし、エスメラルダは何かに驚いてカップを落としてしまう。
その音に、全員の視線が春麗とエスメラルダに集中した。
「あっ……」
「エスメラルダさん?」
春麗は彼女を宥めようとしたが、エスメラルダは何かに怯えていた。 そんな反応はすぐにテティスや一輝にも伝わる。
「何?」
女性海闘士は見知らぬ少女の反応に不快感を示す。 その眼差しにエスメラルダは、ますます怯える。
「エスメラルダ?」
一輝が彼女を落ち着かせようとした瞬間、エスメラルダはその場から逃げようと駆け出した。
「エスメラルダ!
待て」
聖闘士が傍に居るのだから、彼女はあっさりとその腕を掴まれてしまう。
しかし、その表情は硬直していた。
「エスメラルダさん」
春麗は箱を抱えたまま、駆け寄る。
「いったい何があったんだ」
一輝はテティスの方を見た。

エスメラルダがテティスを怖がっているという事実。
しかし、その理由がエスメラルダ本人にも判らないという。
テティスもエスメラルダは初めて見る少女。
どうしたら良いのか判らない現実が、そこにあった。

その時、白羊宮から待ちかねた存在が現れたのである。
星矢は思わず叫ぶ。
「沙織さん……。 星華姉さん!」
二人の黄金聖闘士と一人の少女を連れて、ようやっと沙織が皆の前に姿を見せたのだ。
だが、その手にある白い杖を見て、彼らは女神エリスの不在を察知した。