聖域の一角で突如起こった爆発。
その轟音は、十二宮の前にいたシオン達の耳にも届いた。 「今度は何だ!」 シオンはとっさに敵襲かと考えた。 だが、ダイダロスにはオルフェを見張りに付けているのだ。
彼が再び呪術に近付いたとは考えられないし、考えたくもない。 しかし今回は自分の目で確かめる訳にもいかず、白銀聖闘士の誰かが報告に来るのを待つしかなかった。
そしてその音は、春麗やエスメラルダにも当然聞こえていた。
「……」 咄嗟にエスメラルダは春麗の腕を掴んでしまう。 その瞬間、春麗は何かに驚いたかの様な反応をした。 「あっ、ごめんなさい」 先程の騒ぎで春麗に触れてはいけないと思い込んでいた彼女は、慌てて手を離す。
「えっ……あっ! 大丈夫よ。考え事をしてたから驚いただけ」 しかしエスメラルダは泣きそうな表情をする。 「……ごめんなさい。 私の所為で……」
彼女の考えている事は、春麗には手にとる様に判った。 エスメラルダは自分をここに付き合わせた事を悔やんでいるのである。 「エスメラルダさんの所為じゃないわ」
「……」 春麗は困った様に笑いながら言う。 「それにあの時、五老峰に置いて行かれたら、きっと私後悔していたと思う」 その台詞に紫龍はぎょっとして、思わず春麗の顔を見た。
彼女もまたちらりと紫龍の方を見る。 「とにかくエスメラルダさんは気にしなくて良いの。 この箱だってエリスさんが戻れば、どう使うものなのか教えてくれると思うわ」
仕切り屋としか言いようのない女神の名に、エスメラルダも納得したのか少しだけ笑顔を見せる。 その時、町へ続く階段から騒がしい声が聞こえてきた。
階段を駆け上って来たのは、全員の予想通り貴鬼。 「春麗〜。エスメラルダさん。 水を貰ってきたよ〜」 彼は素焼きのポットと二つのカップを持っている。
そして意外な事に、その後ろから一人の女性海闘士が現れたのである。 女性海闘士の登場に聖闘士達は何事かと緊張し、春麗は顔見知りである事にほっとした。 だが、エスメラルダは初めて見る女性の姿に、心の奥底で何かが疼く。 (私はあの人を知っている?) 実際には会った事はない筈。 ただ、彼女を見た時、エスメラルダは得体のしれない不安を強く感じた。
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