三名の白銀聖闘士の来訪という事で、相手の老人は緊張していた。
聖域が今や厳戒体勢なので、他の家族は別の場所へ避難していると彼は言った。 ダイダロスは老人に一言だけ告げる。 「泡沫(うたかた)の光を……」
老人は頭を下げると、外へと歩き出す。 その時、小さな影が転がる様に老人に近付きしがみついたのである。 それは、避難していた筈の老人の孫。
彼は白銀聖闘士に囲まれる祖父にビックリして駆け寄ってきたのだ。 オルフェが小さな孫の目線に合わせる様に膝をつく。 「大丈夫だよ。彼にはある場所に案内をしてもらうだけだから。
ちゃんと送り届けるから、心配しないでいいよ」 しかし、孫はその言葉を信じて良いのか迷っていた。 すると老人が孫に向かって窘めた。 「聖闘士さまたちは正義を守る方たちじゃ。
いつも爺が言っておるだろう」 静かに語られる老人の言葉。 トレミーは胸を抉られるような衝撃を受ける。 真実を知っていた老人は、小さな孫には聖闘士が正義の側だと言ってくれていたのである。
(彼らの信頼を踏みにじるわけにはいかな) 矢座の聖闘士はその拳に力を込めた。
結局、小さな孫は後から来た親に連れられて、避難場所へと戻った。
親曰く、祖父が居ないといって彼はこっそりと抜け出したらしい。 老人は、腕白で困ると嬉しそうに言った。
そして老人が案内したのは、近くの納屋の中だった。
ヘラクレスの弓と矢は丸太に見せかけた箱に入っているという。 どうしても目立たせるわけにはいかなかった事情。 ダイダロスたちは納得してしまった。
「しかし、どうやって中を取り出すのだ?」 どう見ても丸太である。 蓋らしきものは見当たらない。 すると老人は、この箱には呪術が施されているという。
他の聖闘士では無反応だが、矢座とヘラクレス座の聖闘士のみ解呪可能な呪術。 誰が施したのかは、今は意味がない。 トレミーは慎重に近付き丸太に手を差し伸べた。
「!」 一瞬、火花が飛び散る。 「皆は避難してくれ。 下手をすればここら辺が吹っ飛ぶ」 「何だって!」 すんなり受け渡しが完了するかと思っていたダイダロスは、驚きの声を上げる。
「中の弓と矢が俺の小宇宙の輝きを試している。 例え聖衣を纏っても、それだけではダメという事だろう」 「トレミー……」 「……心配するな」
だが、一度女神アテナに拳を向けたという過去を、ヘラクレスの弓と矢が許すかどうか。 しかし、ここで諦めたら大勢の同胞は無駄死にをしてしまう。
トレミーはダイダロスとオルフェが老人を連れて納屋から避難したのを確認すると、再び丸太に手を伸ばした。 |