太陽は西に傾き始める。
ダイダロスは小高い丘から聖域の町を見ていた。 すでに聖域には聖闘士たちと雑兵以外に人影は無く、沈黙の時間が流れていた。 「もう少ししたら、また、夜が来る」
オルフェは親友の危惧する事を的確に口に出した。 夜陰に乗じて攻めて来るのは天上界か巨人族か。 そしてこの状態が何時まで続くのか誰にも判らない。
ダイダロスが呟く様に答える。 「その前にシオン様から指示があるだろう……」 敵の攻撃に備えて待機するというには、人間である聖闘士達は分が悪過ぎた。
相手は聖闘士達が踏み込む事の出来ない場所からやってくるのである。 攻撃の先制は向こうが握っているも同然だった。
そしてダイダロスの心に暗雲をもたらしているのは、それだけではなかった。
(彼は夜の女神ニュクスの血統だ。 陽が落ちた後では、こちらに勝ち目は無いだろう……) 昔教えてもらった魚座の黄金聖闘士の言葉が思い出される。
“彼”は母神ネメシスの使わした復讐の使者なのだ。 全ての英雄を滅ぼし、聖域に終焉を迎えさせるまで彼は止まらない。 人間である自分達に出来るのは、終焉を先延ばしにする事。
『あれは正真正銘、光と闇の血統から生まれた神。 彼を倒す事は……、私でも難しい』 若きケフェウス座の白銀聖闘士に神代の事情を話す彼の眼差しは、静かな怒りに満ちていた。 |