光り輝く双児宮。
しかし、それはほんの短い間の出来事だった。 その後は何の動きも見せず、彼らは未だに白羊宮に入る事が出来ない。 焦燥感のみが、聖闘士たちの間に募っていた。
そんなピリピリした空気に、春麗やエスメラルダはいたたまれなくなってしまう。 彼女達は非戦闘員なのだ。 長期的な緊張に耐えられる訳ではない。
しかし、春麗はこれからの戦闘に重要な呪具を抱えており、この場から離れさせるわけにはいかない。 そして、エスメラルダの方は一人で何処か安全な所に預けるというのもシオンには躊躇われた。
彼女には何処か儚げな様子が見える。 何か力ある存在の守護を得ないと、きっと彼女は再び何かに捉えられて消えてしまう。 (何故、そんな事を思うのだ?)
聖域の最高責任者はそんな考えに首を傾げた。 シオン自身、自分の判断を間違えているとは思わないが、何故そう判断したのかが判らないのだ。 (何か、以前にも同じ事が……)
他の人よりも長い人生において、似た様な事があったのか。 今は詳しく思い出せないが、同じ轍を踏まない様に自分は慎重になっているのかもしれない。
(ならば、今はその直感に従おう) シオンは貴鬼に言って、社殿にいるであろう神官から二人の少女の為に飲み水を貰ってくる様言う。 貴鬼は、元気よく返事をすると階段を駆け降りて社殿へと向かった。
エスメラルダは一輝に促されて春麗の近くに腰掛けた。 呪具はエスメラルダが近付いても、何の反応も示さない。 どうやら蓋が閉まっている時は、一般の人には無反応のようだった。
一方、社殿に辿り着いたトレミーは、書庫の中で目的の情報を探し続けていた。
だが、書庫を管理する神官から良くない報告も知らされた。 ここで管理している貴重な本のうち、十何冊かが行方不明だというのだ。 神官達も自分達の記憶を頼りにヘラクレスの弓と矢の事を調べるが、未だに見つからない。
そのうち神官の一人が呟いた。 ここの本を管理していた神官が事故死をしなければ、すぐに判ったものをと……。 トレミーは思わず手を止めてしまう。
「事故死?」 話を聞くと、その神官は数年前教皇の命により外へ用事を済ませに行って、そのまま事故で亡くなったという。 今となっては何処まで事故で済ませて良いのかは判らない。
だが、トレミーは確実に当時の教皇の配下に居た。 (何て事だ!) 知り過ぎている者は消されたのかもしれない。 統制の取れた秩序の中で、反逆者は抜かり無く聖域をボロボロにしていたのである。
その時、別の神官がある事を思い出した。 それはケフェウス座のダイダロスが数年前まで書庫に入り浸っていたというのだ。 名前を聞いた瞬間、トレミーはダイダロスを見付ける為に外へ飛び出していた。 |