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続・承認 3

13年前、双子座の聖闘士は謀叛を起こし教皇を殺害する。
しかしこれは、外部に発覚する事無く一部の人間のみが知っているという状態に留まった。
教皇となった『彼』は善き存在として表に立つ。 その胸の内に業火の様な邪悪を抱えながら。
だが、聖域は何も変わらずに秩序が守られており、聖域や近郊に住む闘士以外の人々の目には何も変わらない光景がそこにあった。
だからこそ、真実に気付いてしまった人々は沈黙する。
自らの考えを悟られない様に、いずれ訪れる刺客の影に怯えながら……。


「ヘラクレスの弓に使う矢?」
周囲に気を配りながら、矢座の白銀聖闘士は小声で喋った。
他の人間に自分の怪しい行動は知られたくない。
『そうだ。あれを使える様にしておけよ』
姿無き声にトレミーは首を傾げる。
「それはいったい何なんだ?」
声の主はいきなり意味不明な話を始め、その正体は昔居た矢座の聖闘士だと言う。
そんな展開を直ぐには信じられず、トレミーは誰かにからかわれている様に思えてならない。
しかし、そういう態度が魔矢の怒りを買ってしまう。
『情報がここまで欠落しているとは……。
お前は知恵の女神の聖闘士だろ。少しは自分の立場を古書とかで調べて確認しろ』
その先生と生徒の様な状態にトレミーはカチンと来たのだが、考えてみれば向こうの言い分は尤もである。
知らなかったとはいえ偽の教皇に与して女神アテナに拳を向けたのだ。
白銀聖闘士の地位にいる闘士だというのに知る事が許されなかった立場だ等と言うのは逃げ口実でしかない。
『つべこべ言わずに、矢を保管場所から見つけだしてヘラクレス座の聖闘士に渡せるようにしろ!』
脳内に男の声が響く。
トレミーは思わず耳を塞いだ。 もちろん全然効果はない。
腹が立って、彼は魔矢に対して乱暴な口調で返事をした。
「それは何処にあるんだ?」
この瞬間彼は、相手が息をのんだ様な気がした。
あくまでも気がしただけなのだが……。
そして……。
『何も知っていないのか!!!
お前、それでも先駆けの役目を持つ矢座の聖闘士か』
怒号と共に罵詈雑言が脳内をガンガンと駆けめぐる。
トレミーはこの衝撃に、不覚にも気を失いそうになった。

「では……、お前が居た時代は何処に保管されていたんだ?」
そう言った途端、彼は魔矢から口のきき方がなっていないと説教を喰らってしまう。
瞬間沸騰、即冷却という性格がこの場合は有り難いかかもしれない。
『さて、俺が知っているのは大昔の話だ。
保管場所を移動されたら、どうしようにも無いが……』
とにかく確認の為に、トレミーは魔矢の言う場所に向かう。
警備などで聖域を隅々まで熟知している彼は、魔矢がどこの場所を行っているのか直ぐに判明。
そして移動の最中に、ようやっとトレミーは魔矢からヘラクレスの弓と矢についての説明を受ける。
だが聞いた事により、何故自分は何も知らなかったのかと落ち込みそうにもなった。

すぐに目的地に到着する。
しかしそこは予想通り朽ちた祠となっており、中には何も納められていない。
壊されたのもかなり昔らしく、石の土台には苔が厚く蔓延っていた。
『時間が立ち過ぎているからなぁ』
十年や二十年という月日では無い。
「あとは資料を探すしかないか……。
歴代の聖闘士の誰かが記録に残してくれているかもしれない」
その資料があるのは、昨日メチャメチャに荒らされた社殿の地下書庫。
普段は厳重な扉で隔離されている場所だった。
トレミーは残された希望が無事である事を願いながら社殿へと駆けた。