先程の戦闘で荒れ果てた中庭の中心に海皇ポセイドンは居た。
ギガースとの戦闘後という事で、美しかった庭は見るも無残に壊されている。 彼は床から抉り出され、突き出した岩に寄り掛かっていた。 『……』
何かを待っているかの様に扉の方を見ていた海皇。 そんな彼の目の前に、青い光がゆっくりと漂いながら現れた。 その直後に扉を叩く部下の声が聞こえたが、彼はその声を無視した。
小さな青い光は、彼の回りをクルクルと廻る。
『アムピトリーテ。ここは戦場になる』 海皇の言葉に光は動きを止める。 そして何度か強く点滅した。
『……』 彼は表情を固くする。 光は尚も点滅していた。 『何だと……。 水域の女神達が、あの者達に味方をするというのか。 ガイアに睨まれる事を覚悟で……』
青い光は点滅をやめて海皇の前を漂うように動いている。 彼は光に対して、手を差し伸べる。 それは躊躇う事無く彼の掌に乗った。
『どうやらアテナは、私にも動かせなかった女神たちを味方に付けたのだな。 それでは、私は今しばらくは大人しくしていよう』
自らの身を危険に晒してまで、女神達に聖闘士たちの正義を見せた女神アテナの行動。
それに対して、今度は闘う力を持たない彼女達が応えたのである。
きっとアテナの聖闘士たちはガイアの行動を止め、暴力に酔うギガースたちを再びタルタロスへ封じてくれる。
危険な賭であるからこそ、絶対に負ける訳にはいかなかった。 ポセイドンの掌に幾つもの光が集まる。 『……』 それが重さを持ち姿を見せた時、彼は少なからず驚いた。
『これは……』 光が消えた後に残されたのは、細かい細工の首飾り。 『悪い冗談だが、懐かしい……』 彼は首飾りを握りしめる。 それは、今は居ない孫娘の愛用していた首飾りだったからである。
『アムピトリーテ。あの子は元気だったか?』 光の消えた中庭で、ポセイドンは独り言の様に問いかける。 だが、何の反応もない。 『会いに行ったのだろう。
怒っている訳ではない……』 そこまで言うと、彼の背後に淡い光の柱が現れた。 光の柱はゆっくりと移動し、彼の傍に寄り添う。 『あまり目立つ事はするな。
ゼウスに勘づかれると面倒だ』 そういうポセイドンの表情は、何処か楽しそうだった。 |