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承認 2

惨劇はバレンタインは目の前で起こった。
「ギガント……」
サイクロプスの冥闘士は鎖を引っ張った直後、地下から染み出した黒い粘液のような物に体を包まれて、そのまま大地に呑み込まれたのである。
既に門を封じていた鎖はボロボロに朽ち果て、門自体もヒビが入っていた。
こうなると一介の冥闘士ではどうする事も出来ない。

そして門のひび割れた所が欠けて、中から真っ黒な泥がゆっくりと冥界の大地に染み出る。

バレンタインに向かってやってくる泥。
彼はそれが只の水分を含んだ土ではない事を、瞬時に理解した。
(ギガースが出てくる先触れなのか!)
それともギガースの誰かなのか……。
仲間に知らせるべきか。
ここで自分一人でくい止めるべきか。
迷っている時間はなかった。
(敵を見逃す事は出来ない!)
覚悟を決めて必殺技を放とうとした時、彼は後頭部に軽い衝撃を感じた。


同じ頃、海底では海将軍達が得体のしれない気配を敏感に感じ取った。
「妖気が強まった……」
クリシュナの言葉に、他の海将軍達も頷く。
「ギガースどもが海中に通路を作り上げたのか?」
イオの言葉をバイアンが否定した。
「物理的なモノが現れたのなら、もっとダイレクトに存在が伝わる。
少なくとも強力な水の振動が感じられない。
だが、この気配は海底に眠っているヤツらを目覚めさせる恐れがあるな……」
空気や水を旋回させる事により強固な壁を作る事の出来る海将軍は、海流の動きで敵の有無を判断した。
「気配の根源は判るか?」
アイザックに尋ねられて、バイアンは首を横に振る。
「……気配だけじゃ、確定は難しいな。
むしろ封じられているヤツらをワザと開放して、その動きで判別した方が早いかもしれない。
逃げるか根源に引き寄せられるか、賭になるが……」
海将軍にあるまじき台詞に、クリシュナが怒鳴る。
「そんな危険極まりない事が出来るか!」
その時、カーサが呟いた。
「タルタロスは冥界管轄だ。
そっちの属性の魔獣を開放すれば、懐かしくなって引き寄せられるんじゃないのか?」

その言葉にソレントがある事を思い出した。
(あの島……)
冥闘士の協力で、ようやっと鎮静化した騒ぎ。
あの場所は冥界と何か関わりがあるのではなかろうか?
ソレントはその事を仲間に言ってみる事にした。