争いの女神がその姿を消した所には、女神ニュクスの白い杖が残されていた。
沙織は駆け寄ると、その杖を拾う。 これは夜の女神の持ち物。少なくとも一般の人間が許可無く触って良い物ではない。 (……) 彼女は杖を抱きしめた。
聖戦終結後、かの女神は此の杖を持って自分の前に現れたのである。 不意に涙が溢れそうになったが、なんとか堪えた。 今は泣いている時ではない。
その時、部屋に漂っていた光が渦を巻きはじめた。
そしてアルデバラの聖衣のアーム部分が呼応するかの様に光り出す。 「これは、いったい……」
ムウには何が起こっているのか判らなかったが、アルデバラン本人は特に驚いていなかった。 「……光っているのは此れだ」 牡牛座の黄金聖闘士が出したのは、光り輝く麦の粒。
そして、その粒は自らアルデバランの手から離れると、光の渦へと吸い込まれていった。 何事かと全員が固唾をのんで見守っていると、光は人影を現しはじめる。
その様子に、沙織は目を見張った。 「……ペルセポネ……」 懐かしき友の来訪。 冥妃が聖域の双児宮にやって来たのである。
ムウと星華は言葉を失い、アルデバランも予測はしていたが、やはり驚きを隠せなかった。
「……何故、貴女が此処に?」 沙織の問いかけに光は揺らめく。 生憎、先程のギガース戦の時のように、ムウとアルデバランには沙織の言葉しか判らない。 そして彼らの見る冥妃は、人の形をした光だっだ。
星華も、じっと二柱の女神の方を見る。 『……』 冥妃は何かを話しているらしく、光がリズムある動きをする。 ムウやアルデバランからは沙織は背を向けているので表情は判らないが、隣にいた星華が驚きの表情をした。
「星華さん?」 ムウに話しかけられたのだが、彼女は二柱の女神達の方を見たまま、はらはらと涙を零し始める。 その時、二人の聖闘士の耳に沙織の言葉が聞こえてきた。
「……それでは……、女神達は聖闘士たちを認めてくれるのね」
意外な言葉に彼らは驚いてしまった。 |