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証明 2

小箱が閉じられた途端、黒い得体のしれないモノは霧散する。

「……なんだ。シュンレイは平気なのか」
争いの女神は驚くというよりも、何か残念そうな口ぶりだった。
しかし、当の本人は箱が内側から開けようとするパワーを感じて、そうはさせまいと両腕を回して胸に抱く様に蓋をしている。
「春麗。その箱を私に寄越すのだ」
シオンが駆け寄って箱を取り上げようとしたが、閃光が春麗とシオンの間に走る。
バチンという音と共に、シオンの手から血が流れ、春麗の服の肩口が少し切れた。
「闘士はシュンレイに近付くな!」
争いの女神の声に、シオンはすぐに一歩後退する。
エリスは姿が見えても、物が持てる状態ではない。
触ろうとしても、女神の手は春麗の身体を通過してしまう。
「お前達には扱いきれないモノだ。
とにかくアテナに会ってくるから、大人しくしていろ!」
争いの女神は白い杖を持ったまま、白羊宮の方へ歩き出した。


春麗はエスメラルダが一輝に寄り添って立っている事に安堵したが、紫龍が自分の事を怖い表情で見ている事に気が付いた。
(……怒っている……?)
でも、箱を手離す事は出来ない。 この箱は紫龍たちにとって危険極まりないモノなのだから。
そしてこれは自分が紫龍に出来る数少ない役割。
(絶対に誰にも渡さない……)
しかし、いつまで抱えていればいいのかを考えてしまうと、彼女はちょっと憂鬱だった。

そして紫は目の前で春麗が危険に飛び込んだ事がショックであり、自分の不甲斐なさに怒りが込み上げる。
箱は確かに今は大人しいが、いつ春麗自身に危害を及ぼすか判らない。
だが、自分ではどうする事も出来ないのである。
何しろ彼は黒い煙にまとわりつかれた途端に、動けなくなったのだから。
『── 僕は置いていかれたからね……』
オルフェの言葉が脳裏に蘇る。
(絶対に春麗は守ってみせる!)
紫龍は拳に力を込めた。