「まったく健気だな」
争いの女神は瞬に対してそう呟くと、小さな箱を持ったまま白羊宮へと歩き出す。 だが、少し歩いた時に彼女の身体が歪んだ。 それはまるで何かの映像が乱れたかのように……。
「!」 その瞬間、エリスは手に持っていた小箱を地面に落としてしまう。 「!!!!!!!!!」 「あっ……」
小箱から出てきた黒く重い煙が、まるで触手のように地面を這う。 だが、先程まで持っていた女神は小箱が拾えない。 彼女の手は透けており、小箱に触れないのだ。
白い杖は持っているのに、小箱がダメというのは奇妙な光景だった。 「拾えないのか?」 シオンは小箱に手を伸ばす。 だが、その行為をエリスは止めた。
「闘士どもは触るな! 呪術が発動している。捕らわれるぞ」 その説明と同時に、星矢たちは煙である筈のものが重りの様に足に絡みつく。 「エリス!
なんとかならないのか!!」 しかし、女神は触れないだけで実害がないので、緊張感なく答える。 「蓋を閉めれば大丈夫だ。 ただ、それをやれる人間を探す時間が無い」
「どういうことだ!」 紫龍が叫んだ。彼は春麗が捕らわれない様に、とっさに彼女を持ち上げる。 同じように一輝はエスメラルダを抱き上げていたが、彼女の身体からチラチラと光が零れている気がした。
ただ、それは錯覚の様に思える程の僅かな光。 彼は気の所為かと思った。 「呪術媒体を持たせるのだぞ。 箱の力に対抗出来る人間でないと無理に決まっているだろう」
そもそも、今の時点でここに居る闘士は誰も動けないのだがら除外だと女神は言う。 |