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証明 1

「まったく健気だな」
争いの女神は瞬に対してそう呟くと、小さな箱を持ったまま白羊宮へと歩き出す。
だが、少し歩いた時に彼女の身体が歪んだ。
それはまるで何かの映像が乱れたかのように……。
「!」
その瞬間、エリスは手に持っていた小箱を地面に落としてしまう。
「!!!!!!!!!」
「あっ……」
小箱から出てきた黒く重い煙が、まるで触手のように地面を這う。
だが、先程まで持っていた女神は小箱が拾えない。
彼女の手は透けており、小箱に触れないのだ。
白い杖は持っているのに、小箱がダメというのは奇妙な光景だった。
「拾えないのか?」
シオンは小箱に手を伸ばす。
だが、その行為をエリスは止めた。
「闘士どもは触るな!
呪術が発動している。捕らわれるぞ」
その説明と同時に、星矢たちは煙である筈のものが重りの様に足に絡みつく。
「エリス!
なんとかならないのか!!」
しかし、女神は触れないだけで実害がないので、緊張感なく答える。
「蓋を閉めれば大丈夫だ。
ただ、それをやれる人間を探す時間が無い
「どういうことだ!」
紫龍が叫んだ。彼は春麗が捕らわれない様に、とっさに彼女を持ち上げる。
同じように一輝はエスメラルダを抱き上げていたが、彼女の身体からチラチラと光が零れている気がした。
ただ、それは錯覚の様に思える程の僅かな光。
彼は気の所為かと思った。
「呪術媒体を持たせるのだぞ。
箱の力に対抗出来る人間でないと無理に決まっているだろう」
そもそも、今の時点でここに居る闘士は誰も動けないのだがら除外だと女神は言う。


春麗は紫龍に持ち上げられながら、小箱から溢れる黒い煙と争いの女神を交互に見た。
その時、苦しそうな表情のエスメラルダに気付く。
(エスメラルダさん!)
何故か彼女の身体から光が零れている。
(エスメラルダさんが!!)
先程、海底神殿において自分が真っ先に狙われた。
攻撃するモノは瞬時に最も弱い存在を見抜く。
春麗の胸の内に、かの優しかった精霊の姿が蘇る。
(エスメラルダさんを守らなきゃ!)
地面に下りようとする春麗。絶対に下ろすまいとする紫龍。
その様子にエリスは一瞬だけ笑った。
この微笑みに気付かない彼の腕を突然激痛が襲う。
その為、紫龍は腕の力を緩めてしまった。
彼女は迷う事無く小箱に駆け寄る。
「春麗!」
シオンも驚いたが、春麗は構わず黒い煙の中を走った。
そして彼女は箱の蓋に触ると、勢いよく閉めたのだった。