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続・誓い 6

そして当の魚座の黄金聖闘士は、不敵な笑みを浮かべて神と対峙していた。
「アフロディーテが……女神アフロディーテの息子?」
デスマスクは話の内容の異様さに、驚いてしまう。
「……という事は、アフロディーテはエロス……」
デスマスクがギリシャ神話上の愛の神の名を言った途端、聖闘士アフロディーテの投げた紅いバラが彼の顔をめがけて飛んできた。
とっさに蟹座の黄金聖闘士はバラの攻撃を避ける。
「危ねーぞ!!」
「煩い!
あれと私を一緒にするな!!」
今にも先にデスマスクを葬り去りそうなアフロディーテの眼差し。
この凄味のある様子に、デスマスクは沈黙した。

「……トロイア側の英雄は死んでいなかったのだな……」
ポリュデウケースは薄く笑う。
「本当に懐かしい……」
だが、彼らを取り巻く空気は緊張に満ちていた。
不死なる神は言葉を続ける。
「そうなるとアンドロメダ島の粛清等は、既に小細工済みだったという事か……」
その問いに魚座の黄金聖闘士は、宿敵の方を向いた。
「一人の男が限りある命を使って、不死である神に対抗しようというのだ。
少々手助けをしたまでだ」

アフロディーテの脳裏に当時の記憶が蘇る。


たった一人の聖闘士を鍛え上げる為に、彼は意図的に彼女の目の前でダイダロスと兄弟子たちを葬り続けた。
彼女には何者からも気配を察知されない技術を、習得させなくてはならない。
命のやりとりを目の前にしても、黄金聖闘士である自分に気付かれないように気配を消す完璧さ。
これは幾千幾万の訓練をしても、たった一度の実戦で手に入れた方が価値があった。
何故なら、これから彼女には他の女神の神殿へ行って貰うから。
闘いに次ぐ闘いの後、女神アテナに何かあった時に手助けが出来る状態にいて貰わなくてはならないから。

そして彼女の、彼女自身が抱える未練を断ち切る役は、何も知らない日本にいるアンドロメダ座の聖闘士にさせる事になった。
彼にそう進言したのは、ダイダロス本人。
年若い青銅聖闘士は、きっと彼女の手を離す。
大勢の弟子を育て上げた者の言葉には重みがあった。

後日、双魚宮で初めてアンドロメダの聖闘士を見た時、彼はダイダロスの読みが当たった事を知る。


(あそこの一門は、身内に厳し過ぎるな……)
だが、そのお蔭で今こうして、アフロディーテはポリュデウケースと決着をつける機会を得たのである。
「なるほど、人間にも少しは出来る奴がいるのだな」
ポリュデウケースは何処か楽しそうだった。
緊張状態は続いてはいたが、一触即発というのとは少々違うとデスマスクは感じる。
(お互いに相手を倒す気は無いのか?)
だからと言ってデスマスクが動けるわけではない。
むしろ迂闊に動くと、目の前にいる者達から攻撃を喰らってしまう予感がした。