転移の術の力場が消滅すると、瞬は争いの女神の前に立ちふさがる。 「エリス!
もしかしてジュネさんに会ったの!!!」 エリスは少々嫌そうな表情をした。 「カメレオン座の聖闘士の事か?」 「そうだよ!」
瞬もまた、その返事に不安を覚える。 「ジュネさんは今、何処にいるんだ?! 教えてくれ。エリス!」 するとエリスは、嘲笑う様な笑みで瞬を見た。
「あの聖闘士なら、ヘカテ様の神殿の前で別れた。 それ以降は知らない。 お前が会っていないのなら、きっと捕らえられたか処分されたのだろう。 そう言えば、あの聖闘士は居もしないお前に向かって、『邪魔はしない』と言っていたな」
何故か聞こえてきたジュネの心の声。 あの切ない声に、争いの女神は死を選んだ教え子の事を思い出してしまった。 親友を守る為に、あの子もそう思いながら血を流したのだろうか?
(そのような犠牲に、何の意味がある!) だが、それしか選べなかった教え子を責める事は出来なかった。
そしてエリスの言葉に、その場の空気が凍りつく。
「嘘だ!」 瞬はその場で叫ぶ。 信じられない言葉。争いの女神に騙されているのだと、彼は思った。 その今にも掴み掛かりそうな様子に、近くに居た星矢が瞬を羽交い締めにする。 エリスはその様子を平然と見ていた。 「あの聖闘士は今回の試練で捧げられた生贄だ。
だから、神殿への案内という反則行為に対してヘカテ様は何も言っては来ない」 さらに残酷な言葉が続く。 「そして今回の様な事では生贄が女神のもとに行くのは当然の事。
その場に我々が偶然居合わせたとしても、他の神々は何も言わない。 それとも我々を前に進ませる為に追手を一人で引き受けてくれたと言えば、闘士の誉れと言う事で少しは納得出来るのか?」
追い打ちをかける言葉の冷たさに、瞬は呆然としてしまう。 「アンドロメダ。こういう結末を覚悟の上で、あの時に手を離したのだろう。 ならば、別に驚く事はあるまい」
何もかもを知っているかの様なエリスの態度に、彼は何も言えなかった。
(初めて聖域へ行く時……) 仮面を外して素顔を見せてくれた時が、自分と彼女にとって運命の別れ道だったのか?
(あの時に僕がジュネさんの手を取っていれば……) しかし、それはもう仮定でしかない。 そして手を取っていれば、もしかすると闘い続けている仲間達を思い、心を傷つけていたであろう。
とはいえ、今の痛みが大した事はないと言うわけで絶対にない。 今、瞬は泣く事すら出来なかった。 |