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続・誓い 1

雨の止んだ空を、氷河と紫龍は見上げる。
風が吹いて今まで厚く立ち込めていた雲が動き始め、その切れ間から太陽の光りが差し込んでいた。
その光景はとても美しく、そして荘厳だった。
まるでこれから天上界が何か仕出かすのではないかと思えるくらいに……。

しかし、天界が動き出したと言う気配は未だにない。
そしてポリュデウケースの策略により捕らわれた黄金聖闘士たち。
凍りつく十二の黄金宮。海岸でのギガースとの戦闘。
次々と大問題が聖域に降り掛かる。
報告に来た白銀聖闘士たちに幾つかの命令を下すと、シオンは白羊宮の入り口に立ち、奥の方を厳しい眼差 しで見つめた。
(……これでは、奴の思うつぼだな……)
彼は自分の両手を見ると、固く拳を握った。


彼がこの世界に舞い戻った場所はスターヒルだった。
そして彼自身、十三年前の老人の姿だった。
すぐに仕方ないと自分を納得させる。
童虎は女神の力により成長を止めていたが、自分はそのような事はしていない。
そのような事を気にするくらいなら、内乱と聖戦でボロボロになった聖域をどう建て直すべきなのか考えた方がマシだった。

とにかく誰かに会って何が起こっているのか確認しようとした瞬間、彼の周囲に闇が広がる。
足元も判らないくらいの深い闇。シオンは動くことが出来なかった。
既に空も闇に覆われて、星も見えない。
そんな彼の脳裏に、誰かが話しかけてきた。
とっさに男の声だと思ったが、本当に男の声かと言われると確証が持てない。

その声はシオンにある種の取引を持ちかけてきた。
若さを与える代わりに、これからも女神アテナを助けて欲しい。 声はそう告げた。
一瞬、何を当たり前の事をと彼は思う。
女神の為に自分は存在する。
なのに、何故声の主はそのような事を言うのか。
願ってもない取引ではある。
だが、シオンは裏があると直感した。
「私に何をして欲しいのだ」
思い切って、謎の声に問う。
だが、声の主は何も答えず、シオンはいきなり十八歳の時の姿になった。

問答無用で行われた取引。
この場で自らを滅ぼすべきか、それとも声の主の思惑を探るか。
彼は瞬時に後者を選んだ。

(既に私がこの姿で生きている事が、奴の望みではないのか?)
理由を何も言わずに自分を若返らせたのである。
味方であるとは考えにくい。
では、敵なのかと言うと、戦力的に老いた自分の方が向こうは都合がいいのではなかろうか?
そうなると最後に考えられるのは、自分はいずれ向こう側に良い様に利用される可能性だった。
(操られて女神に仇をなすくらいなら……)
既に覚悟は出来ている。
幸運にも弟子と孫弟子にも会えた。
親友とは会えるかどうかは判らないが、執着しない様に自分を押さえ込む。
春麗の事に関しては、童虎を一度は殴り倒さないと気が済まないのだが……。