これ以上にない不運。
暗闇の世界でデスマスクは自らの凶運を呪った。
「蟹座……。何時まで逃げ回るつもりだ」
敵は嘲笑うように彼に話しかける。
「さぁな。
飽きた頃に手合わせしてやるよ」
デスマスクは闇に身を潜める。
(あの爆発の後で、ポリュデウケースに見つかるとは運がねぇなぁ……)
そもそも黒の聖域から離れた筈なのに、一瞬にして引き戻されているのだから腹が立って仕方がない。
(多分、ミロの奴は三巨頭の一人と戦闘状態だ……)
だが、自分が闘ってはポリュデウケースに逃げられてしまう可能性がある。
だからと言って囚われるのもムカつく。
何故か、相手は黄金聖闘士を殺す気は無いらしい。
(この分じゃ、シュラは囚われたな)
昔からサガのもう一つの人格は、化け物染みていると思っていた。
その正体が『神』だと言うのだから、反則としか言いようがない。
相手の気配が消えたと感じた途端、デスマスクは反射的にその場から離れる。
その直後に、今まで居た場所の床が破壊された。
「危ねぇぞ!
ポリュデウケース!」
「ならば逃げない事だ。
一瞬の痛みで全てを終わらせてやろう」
デスマスクが技を使わないせいなのか、ポリュデウケースもまた技を使わずにいた。
正々堂々としている言いたいが、本来神と人間の戦いに公正も平等も無い。
(遊んでいやがる)
相手が自分を玩具のように扱っている事に、彼はだんだん腹が立ってきた。
(サガのヤツ、何をしているんだ)
あの男が大人しくしているとは、デスマスクには到底考えられなかった。
(ヤツの精神力は、半端じゃない……)
当時、狡猾なまでに張りめぐらされた罠から聖域を守る為に、彼らは闇にならざるをえなかった。
なぜなら罠は、大詰めに入っていたのだから……。
方法は決して称賛されはしない。
だが、選択肢はない。
それは何も知らない若き闘士達を簡単に滅ぼすように仕組まれていたから。
そして神の如き男は、自分の中の闇に呑み込まれる。
13年後に審判の下る、その瞬間まで。
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