彼女は再び目の前の少女の方を向く。 「……この中には石が入っている。 単に持っていてくれればいい。 ただし、中を見てはいけない。執着もしてはいけない」
パンドラは謎かけのような事を言って、エスメラルダに黒い小袋を渡す。 「石??」 感触からして四角い物だと言う事が判る。 「今度会う時は、きっと何もかもが終わっている事だろう。
その時、返しに来てくれ。 このハインシュタインに来てくれたら、美味しい茶を振る舞おう」 再会の約束。その為にパンドラはエスメラルダに袋を預けたのだ。 エスメラルダは驚きながらも頷いた。
そしてパンドラの視線が、瞬に移る。 「アンドロメダも今度ここへ来る時は、カメレオン座の聖闘士を連れてきてくれないか? 是非、礼をしたい」
いきなり言われて、瞬は驚きのあまり目を見張った。 「えっ?」 彼は聞き間違いをしたかな?と、自問自答する。 この様子に、エリスは苦々しい表情をした。
「何で貴女がジュネさんを知っているの?」
意外な人から意外な存在の事を尋ねられても、瞬には二人の繋がりが判らない。 パンドラの方は瞬が目的の女性聖闘士の事を知っている事に満足し、彼の困惑は何も知らされていなかったと言う事なのだと考えた。
「……女神の試練で世話になったのだ。 あの者の力添えがなければ、試練を成し遂げる事は出来なかった。 まだ会っておらぬのか?」 瞬は首を縦に振る。
確かに会ってはいない。 この時彼は、ジュネを今まで見かけなかった事の意味を考え直した。 (……女神の試練に、何でジュネさんが……)
女神たちの手助けをしたのなら、報告をかねて聖域に帰って来てもいい筈。 でも、彼女は居ない。そんな話を誰からも聞いていない。 (……まさか、ジュネさんの身に何かあったんじゃ!)
瞬は事情を知っていそうな存在を見た。 「聖域は、ちょっと混乱していたから……。 でも、会ったら言っておくよ」 無難な答えを口にする。
だが、瞬にとっては自分に言い聞かせる為の言葉だった。 彼のそんな様子に、パンドラは眉を顰めたが何も言わなかった。 「お喋りはここまでだ」
絶妙のタイミングでエリスが二人の間に入る。 「パンドラ。ワイバーン。 後の事は頼んだぞ」 エリスは手に持っていた白い杖を掲げる。
すると地面に光の魔方陣が現れた。 パンドラは頷くとラダマンティスの傍へ駆け寄る。力の流れに巻き込まれない様にする為だ。 ラダマンティスは彼女を抱き寄せた。
「エリス。 約束だぞ!」 パンドラの言葉に、争いの女神はただ笑うだけ。 そして光が溢れ消えた後、その場には二人だけが残された。 |