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誓い 1

瞬と貴鬼は先程、ハインシュタイン城にやって来た婦人達から
「小さいのに偉いわね」
と、わけも判らずに褒められていた。
どうも料理人とその助手だと、何処をどう見たらそうなるのか謎な存在に思われたらしい。
そんな婦人達が荷物を持ってきた一輝とエスメラルダを見たものだから、誤解に拍車がかかった。
長く居続けるのは面倒な事になるとばかりに、彼らは城を出る。
ミューはパンドラ達を迎えに行きたかったが、婦人達がいるという理由で城に留まる事にした。

「用事は終わったの?」
瞬の問いかけにエリスは頷く。
パンドラとラダマンティスは彼の服装を不思議そうに見る。
「何かやっていたのか?」
パンドラに言われて、瞬は自分の服装に気が付く。 彼は料理人の服を着たままだったのである。
瞬は顔が赤くなった。
「この服を返さないと!」
慌てて城に戻ろうとする瞬を、エリスが襟首を掴んで引き戻す。
「そんな時間があるか!
ワイバーンにでも渡しておけ」
争いの女神の凄味ある形相に、瞬はちらりと三巨頭の一人である男の方を見た。
「……よかろう。俺が預かっておく」
不本意ではあるが、こんな所でつまらない争い事もやりたくない。
ラダマンティスはそう考えて、瞬に近付く。
「……ありがとうございます……」
バツが悪そうに瞬は料理人の服を脱ぐと、簡単にたたんでラダマンティスに渡した。

そして一輝と瞬が聖衣を装着している時、パンドラの方はと言うとエスメラルダの方を見ていた。
エスメラルダはその視線に落ち着きを失って、一輝の後ろに隠れてしまう。
「エスメラルダに何か用か?」
一輝に尋ねられて、パンドラは彼の顔を見た。
「……用と言えば、用なのだろうな……」
彼女はエスメラルダに対して手招きをする。 その光景は何処か、大人が人見知りをしている子供を呼ぶ仕種にも似ている。
エスメラルダは一輝の顔を見た後、おずおずとパンドラの前に立った。
「あの……何か?」
エスメラルダは緊張状態で、表情が固い。
「其方に、これを渡しておく」
パンドラの意外な言葉に、彼女はきょとんとした。
「えっ?」
「この袋をしばらく預かって欲しい」
そう言って黒の女王は、ハーデス城から持ってきた小袋を金の髪の少女に渡す。
「何だ、それは……」
一輝が不審そうに袋を見る。
「パンドラ様!」
ラダマンティスが驚いてパンドラのもとに近付いた。
エスメラルダはその様子に驚いて、困ったように一輝の方を見る。
しかし、ワイバーンの冥闘士の行動をパンドラは制した。