「春麗さん」
不意に呼ばれて春麗は、はっと我に帰る。 慌てて周囲を見回すと、そこは見慣れた海底神殿の一室。 自分の後ろにはセイレーンの海将軍が立っていた。
その時、自分が握り続けていたテティスの手が動いた事に気が付く。
「う……ん……」 唇から零れた言葉に、春麗とソレントはドキリとした。
そしてテティスの目が薄く開く。 「テティス!」 「……セイ……レーン様……」 テティスはソレントを見た後、春麗を見て不思議そうな顔をする。
知っている様な気がするのだが、何処で会ったのかが思い出せない。 「気が付いたのか!」 星矢が思わずテティスの顔を覗き込んだ。 だが、テティスにとって星矢は以前闘った聖闘士でしかない。
「何で聖闘士がここにいるのよ!!」 彼女が星矢を攻撃しようとするのを、ソレントは必死になって押さえこむ。 「テティ……ス。 セイレーン。何やっているんだ!」
シーホースのバイアンが部屋にやって来てギョッとする。 星矢はとっさに春麗を抱えて、部屋の隅に避難していた。
そして同じ頃、リュムナデスとクリューサオールの海将軍が、海底神殿へと戻ってきた。
テティスが目覚めた以上、春麗をここに置いておくのは逆に良くない。
カノンはそう判断すると、彼女を地上へ返す事にした。 もう女神テティスがここには居ないと言う事が、春麗の言葉とテティス自身の様子から判ったからである。
そして彼は戻ってきたカーサに睨まれていた。 「あのカストールに会ったのですか……」 「あぁ、今でも信じられないが、確かに俺達は神話の時代に連れて行かれた」
クリシュナの言葉に、他の海将軍は絶句するしかない。 テティスはその名に眉を顰める。 以前読んだ書物で、スパルタの王子の名前だと言う事は判っていた。
でも、何で今こんなにもドキドキするのかが判らない。 「向こうの方が当社比1.5倍くらい冷静な男だったぞ」 カーサの断言に
何の当社比だ と全員がツッコミを入れそうになる。 カノンは思わず握り拳を固めたが、ここで喧嘩をするのは本当に大人げないと考えて冷静さを取り戻す。
「とにかく俺は一度聖域に行く。場合によっては向こうと共同戦線を張らざるを得ないからな。 あの娘は一緒に連れて行くから、お前達はこのままギガースの動きに注意してくれ」
「私も行きます」 ソレントは春麗と約束をした手前、最後まで彼女を守らねばと思い一緒に行こうとする。 だが、カノンはそれを止めた。 「あの子は俺が責任を持って聖域に返す。
それより中庭から出てこない方を気をつけてくれ」 乱暴な物言いをした後、カノンは急いで部屋を出た。 (シードラゴン様……) テティスは心の内でそう呟いた後、思わず顔が顔が赤くなった。
(何、何!!!) 何故、自分がこんな反応するのか判らず、何度か軽く自分の頬を叩く。 「?」 海将軍たちは仲間の様子に首を傾げた。 |