見知らぬ少女を抱きしめながら泣いている、自分と同じ顔の女性。
その周囲には、顔の判らない6名の海将軍がいた。 そしてシードラゴンの海将軍が居ない。 しかし、その光景を不思議だとは思わず、テティスは目の前の様子をぼんやりと見ていた。
驚くというよりも、とにかく悲しく腹立たしかった。
『何故、この子が傷つかなくてはならないの?
何故、海将軍も海闘士も動いてはくれないの?』
彼女は叫んでいる。 しかし、男達は動かない。
『裏切り者。
恥知らず』
彼女は有らん限りの罵詈雑言を海将軍達にぶつけていた。 テティスは彼女の怒りが理解出来た。
既にその女神にとって海将軍たちは敵でしかない。 許し難い罪を犯しておきながら、尚も海将軍の地位に居続ける心根を醜いと感じる。 テティスが彼女の気持ちに引きずられて、同じように海将軍たちに怒りを覚えて口を開こうとした時……。
「これは何かの昔話ですか?」 ほよほよした青年の声に、テティスは飛び上がらんばかりに驚いた。
「ジュリアン様!」 そこに立っていた人物に、テティスの思考が一瞬止まってしまう。
そしてその瞬間、目の前で繰り広げられていた光景は霧に溶け込む様に消えてしまう。 「……? 貴女は私の名前をご存じなのですか?」
ジュリアンは人懐っこい笑みを浮かべる。 テティスは自分に向けられる優しい笑みにドキドキしてしまった。 急に顔が赤くなるのが判る。 しかし彼は、気にせずに遠くの方を見る様な仕草をした。
「あの方達は消えてしまいましたね」 「あ……あの、どうしてここに?」 テティスの質問に、ジュリアンは苦笑する。 「どうしてでしょうか?
あの方の行う事はよく判りません」 「あの方?」 「素直な方ではないので、お嬢さんは知らない振りをして下さい」 ジュリアンの謎めいた言葉に、テティスは首を傾げる。 |