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武神 3

春麗はテティスの手を取ると自分の両手で包み込み、祈りを捧げるように女神の目覚めを願い続けている。
本当なら今すぐ聖域に戻りたい。
だが海将軍たちは自分を信頼して眠り続ける女神を託してくれたのである。
ここでその信頼を裏切る訳にはいかない。
春麗は星矢に対してはもっともらしい理由を言ったが、本当は聖域に戻って紫龍の無事を確かめたかった。
(紫龍……)
しかし彼の傍に自分が居ても、何の役にも立たない事も判っている。
むしろ盾となってくれた海将軍のひとのように、自分が居た所為で紫龍や他の闘士を危険な目に遭わせてしまうかもしれない。
不意に涙が零れた。
(やっぱり……、もう一緒に居ない方がいいのかな……)
自分が無事である事を喜んでくれた彼に、自分が出来る事は何なのか?
「……テティスさん……」
春麗は彼女の手を握りながら、優しかった女神に呼びかけた。


海皇は異空間に舞い降りる。
先程の騒ぎは、既にオケアノスの一族やネーレウスの一族に知れ渡ったであろう。
もしかするとこの機に乗じて、ガイア側に味方する者が出てくるかもしれない。
(それも仕方あるまい……)
ポセイドンは自嘲気味に笑った。

何しろ海の女神達はパラスをとても可愛がっていた。
自分や天上界の思惑を知りながら、彼女を長い間匿い続けたくらいである。
その女神が今から300年程前に、突然行方不明になった。
彼女達が真っ先に考えたのは、天上界がパラスを連れ去ったのかもと言う事。
しかし、どうも違う様だと彼女達は判断すると、次に推測の攻撃対象になったのは海将軍。
彼らがパラスを発見して、自分達の元から連れ去ったのだと思い込まれた。
何故ならパラスは海将軍達をとても信頼していたから。
自分の無茶な約束も、絶対に守ってくれると考えるくらいに……。

確認は出来ない。
だが、そうとしか考えられない。


怒りに燃える女神達は、先の聖域との闘いの時に青銅聖闘士達の味方をした。
そうでなければ、そもそも彼らは海底神殿には辿り着けない。
海は地上の人間が考える程、大人しく優しい世界ではないのだから。

(アムピトリーテ。
少々、海が荒れるかもしれない)

そして彼は手に持っていた三叉の戟を高く掲げた。