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武神 2

悩んでいる星矢の傍ではバイアンが自分で怪我の手当をしている。
「大丈夫なのか?」
彼はバイアンに話かける。
ギガースであるポリュボーテースによって付けられた傷は思ったより深く、海将軍は肩を動かすのが辛そうではあ った。
「平気だ。 シーホースの鱗衣が守ってくれたからな」
バイアンは自分の肩に手を置く。
だが、傷はまだ熱と共に、彼に痛みを与え続けていた。
星矢は複雑な表情でバイアンの事を見る。
海馬の海将軍は、アテナの聖闘士のそんな態度に小さく笑った。
「ペガサス。お前が気にする事はない。
お前は、あのお嬢さんを守ろうとした。
それは間違っていない」
「……」
「だが、無謀だ」
バイアンは言いたい事だけを言うと、席を立つ。
彼は反論出来なかった。

『絶対に生きて戻る事。それが人間側の勝利条件だからね』

不意に、女性の声が脳裏に蘇る。
前にも聞いた事のある、幼馴染みの少女に似た声。
星矢はキョロキョロと周囲を見回した。
だが、部屋にいる女性は眠り続けているテティスと春麗の二人だけ。
(誰なんだ……?)
彼は首を傾げた。

海底神殿の中庭で、ポセイドンは一人佇む。
ギガースとの闘いの幕は切って落とされたが、どれ程力を得ようとも地母神ガイアの呪縛からは逃れられず、 自分達では奴らを殲滅させる事は出来ない。
何故ならクロノスの子らは生まれながらに彼女の潜在的な支配下に置かれている。
永遠に繰り返されるであろうギガース達との闘い。
だが、乙女神であり武神であるアテナとパラスは、その呪縛を断ち切る力があった。
それは彼女達が次の世代を創造する女神達だったから……。

(ガイアめ……。 あの子の存在に気が付いたか。
よもやパラスをおびき出す為にギガースに力を与えたのではあるまいな……)
二柱の女神達を一気に滅ぼす為に、ガイアが動き出したのか。
それは彼自身にも確証が持てなかったが、納得は出来た。
自分と対等の存在が生まれた以上、力が未熟なうちに全力を持って倒すのが闘いの定石だからだ。
ポセイドンは三叉の戟を強く握ると、一振り横に払った。
青白い光が中庭の空間を走る。