まだ日は落ちてないと言うのに、人馬宮は闇に包まれていた。
しかし、その事に女神アテナも聖闘士たちも気が付いていない。 光を吸い込むくらいの深い闇。 中で何が行われているのかは、誰も知りようが無かった。
そして双児宮は壁に亀裂が入り始めていた。
ムウのクリスタルウォールは沙織達を落盤等から守る事は出来るが、呪術が施されている壁の亀裂を止められないでいる。 それどころか壁に現れていた光の魔方陣は、亀裂が入った事により力が暴走し始めた。
点滅を繰り返し、光の帯を放ちながらバチバチと音をたてる。 「きゃっ!」 小さな稲妻のような放電現象に驚いた星華は、その場にしゃがみ込んだ。 「アテナ。これ以上は危険です」 しかし、沙織は首を横に振る。 「私はここに残ります」 「アテナ!」 「もうすぐ術は完成するのです。 大地の女神達を守らねばなりません」 その為には、彼女達を攻撃し続けているプログラムが作動している此処を、離れるわけにはいかない。 別の場所で沙織が身を犠牲にしている呪術が発動しても、効果が薄いからである。 「どうやら、別なものが目覚めた様だな」 アルデバランの言葉に、三人は出入り口の方を見る。 「……罠ですね……」 誰もが言葉が出なかった。 出入り口は既に赤い光の魔方陣が現れ、他の魔方陣を侵蝕し赤くし始めたからである。 「増殖機能とは、凝ったものを作ってくれたものだ」
星華は震えながらペガサスの神聖衣にしがみつく。 その時、とうとう天井に大きな亀裂が入った。
白羊宮前の広場で、氷河は不意に顔を上げる。
「先生……?」 つられて紫龍もまた、神殿へと続く十二宮を見上げた。 |