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闘志 2

「……動き出したな……」
夜の女神の世界で、双子の神々は闇の中を見ていた。
「ギガースまでが動き出すとは、実に豪華だ」
死の神は面白そうに笑った。
「地母神ガイアもチャンスだと思ったのだろう。
だが、三世界の闘士たちがほとんど復活している。 やすやすとギガースたちに地上を奪われる事はあるまい」
「……」
タナトスは少しだけ眉をひそめた。
「あの方なら冥闘士たちが守る。 我々が出る事はあるまい」
ヒュプノスは兄弟の顔も見ずに答える。
「……それは、そうだが……」
「お前があまり気にすると、天上界にあの方の事が知られる」
天上界と言う言葉にタナトスの目が光った。
「そうだな」
死の神は右手を前に出す。

今度は別の場所の様子が、闇の中に浮かび上がった。


(ヤツ?)
話の流れから言えばサガの事なのだろう。
だが、会ってくると言うのはどういう意味にとれば良いのだろうか?
無駄な説得を試みるのか。 それとも倒す気なのか。
勝算はあるのか。
カミュにはアフロディーテの考えている事が判らなかった。
(まぁ、いい。いずれ教えて貰おう)
そして絵梨衣の方へ近付いた時、今まで時間までもが止まっていたかの様な空間に何かの気を感じた。

(これは!)
彼は瞬時にそれの正体を、殺気と判断する。

「?」
絵梨衣は闇の中で何かの音を聞いた。
「危ない!」
カミュは絵梨衣を抱き寄せると、右手を前に出す。
その瞬間、何処からやってきたのか強い光が二人に襲いかかった。
間一髪で、カミュの作り上げた青白い光の凍気が壁となり、二人と白鳥を守る。

壁とぶつかった衝撃なのか、一瞬だけ絵梨衣の身体に重圧がかかる。
右側の腕輪にひびが入った。

「ああっ……」
そして、彼女はその光に見覚えがあった。
かすかに見える古代の鎧をまとった大勢の兵士の影。
ナターシャが言った死の光が、再び襲ってきたのである。
震えながらも光を見続けている彼女の異変を察知して、カミュは絵梨衣を自分の方に向かせた。
それでも彼女の震えは止まらない。
『…………』
彼女は自分に向けられる敵意と殺意に身体を強張らせた。
たくさんの男の声が、エリスに対して恨みと怒りを叫んでいる。