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闘志 1

レダ。
金色の神を持つ神が口にした名前と同じ名前を言われて、絵梨衣は緊張のあまり息苦しさを感じた。
これは偶然なのだろうか?
それとも、何かしらの必然が存在するのだろうか?
恋人の神聖衣は、絵梨衣のことを見上げていた。

「アフロディーテ。無事だったのか!」
カミュは水晶の柱に向かって呼びかける。
『一応な。 それより、カミュに頼みがある』
「何だ?」
『そこにいる女性を保護してくれ』
アフロディーテの予想外の依頼に、カミュは黒マントの女性の方を向いた。
彼女はカミュに振り向かれて、思わず後ずさりする。
「あの女性に何かあるのか?」
カミュは絵梨衣の方を見ながら、話を続ける。
そんなに彼女との距離が離れていなかったので、まだ駆け寄る必要がないと判断したからである。
『切り札になるかもしれない。 とにかく私は、これからヤツに会ってくる。
頼んだぞ』
カミュはこの時、アフロディーテがこの場から離れた事を知った。


アフロディーテは宝瓶宮を出ると、階段を駆け降りる。
(間に合うか……)
事態は思った以上に急激な展開を見せている。
宝瓶宮に現れた白鳥を連れた女性。 スパルタの王妃なのかどうかは、確認が取れない。
(だが、偶然とは思えない……)
ポリュデウケースの兄であるカストールの実母であり、彼自身の養母であった王妃レダ。
アフロディーテは既に賭けに出る決意を固める。

先程までは彼自身、ポリュデウケースとの対決は非常に危険だと考えていた。
しかし、分の悪い戦いでも向こうが大勝負に出た以上、何としてでも止めなくてはならない。
それこそ、仲間を全員犠牲にしようとも……。
(ぐずぐずしていたら、全てが無駄になる!)
神であるポリュデウケースと闘うには、どうしても彼の予測を超えた事態を引き起し、それを味方にしなければならない。
なぜなら正攻法では絶対に彼に勝てないからだ。
(絶対に仲間達が流した血を無駄にはしない)
磨羯宮、人馬宮、天蠍宮。 次々と暗黒の宮を突破する。
彼は目指す敵が近い事に、感覚的に気が付いた。

彼の脳裏に、燃え落ちる故郷の記憶が蘇る。