☆ |
続・条件 5
海辺にて岩を巻き上げて全てを滅ぼそうとする巨人エンケラドス。
だが、その優勢は頭上に現れた光により脆くも崩れさる。 彼の頭上は竜巻の中心の如く無風状態であり、その奢りによりガードがされていなかった。 「フラッシングランサー!」 海将軍であるクリュサオールのクリシュナが、その必殺技を巨人に対して行ったのである。 巨人の身体を貫く無数の光。 勝利を確信していたエンケラドスは、この攻撃に対して為す術も無かった。 巨人の身体が再び歪む。 「何者だ!」 エンケラドス以上に驚いたのは聖闘士達である。 「まさか……海将軍か!」 ダイダロスはその闘衣の形から、素早く相手の正体を推測する。 そしてオルフェが好機とばかりにデストリップセレナーデを奏でた。 虚をつかれたエンケラドスの耳に届く調べ。 今まで血に飢えていた筈の巨人はピタリとその動きを止めてしまう。 「クリュサオール。止めは刺さないのか?」 もう一人の海将軍の言葉に、黄金の槍を持つ闘士は首を横に振った。 「あれはもう動けない」 彼の言う通り、巨人は目を瞑りオルフェの奏でる竪琴の音色に聞き入っている。 そして無理矢理こじ開けた空間が、再び巨人の身体を呑み込み始める。 だが、巨人は自分の身体が崩れさるのも気にせずに、尚も目を閉じている。 その表情には、かすかに恍惚とした笑みが浮かんでいたようにも見えた。 「岩が落ちてきたぞ!」 別の聖闘士の言葉にダイダロスはオルフェを守らなくてはと素早く判断した。 今、演奏が中止されれば、巨人が最後の足掻きとばかりに何かを仕出かさないとも限らないからだ。 だが、無情にも岩は海辺に降り注ぎ、音を立てる。 周囲が一気に騒々しくなったが、オルフェは尚も演奏を止めなかった。 そして騒音はエンケラドスを正気に戻す。 巨人は目を開けるとオルフェの方を見てその手を伸ばした。 「オルフェ! 避けろ」 ダイダロスが親友を庇おうとした瞬間、巨人の手はオルフェの頭上でピタリと止まる。 その手の上に降り注ぐ岩や小石。 琴座の聖闘士は尚も竪琴を奏で続ける。 「まさか……、巨人がオルフェを守っているのか……」 誰もが信じられなかったが、どう見てもそう思えて仕方のない構図。 巨人の不可解な行動は、岩が落ちてこなくなって周囲が静かになるまで続いた。 そして岩が落ちて来なくなったのを見届けたかのように、巨人の身体は静かに消えてゆく。 同時にオルフェの演奏が終わり、周囲に静寂が戻った。 |