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海辺の異変と前後して、双児宮でも異常が発生した。
膨大な負荷がかかり、ムウの足元の床が崩壊したのである。 壊れた光の魔方陣が一斉に牡羊座の黄金聖衣の上を走り、スパークを起こす。 彼の注意が一瞬それた隙を狙ったかのように、宮の壁がグニャリと歪んだ。 そして沙織とムウは、そこから強敵とも言うべき存在が近付いている事を知る。 沙織に至っては、それが何者なのかも判っていた。 「ムウ。私の事は良いですから、星華さんを守りなさい」 既に沙織の身体は胸の所まで光の紋様が浮かび上がり、呪術が進行していた。 だが、彼女は苦痛を表情に出す事無く、牡羊座の黄金聖闘士に命令を出す。 「しかし……」 「貴方が星華さんを守ってくれなければ、私が闘えません」 沙織の言葉にムウと星華が驚いた時、それは歪んだ壁から姿を現した。 黒い煙のような影。 しかし、それが示す姿は既に巨人と言うよりも、異形の獣を呼ぶに相応しかった。 沙織はギガンドマキアからの因縁の相手が、その姿を変えている事に少なからず驚く。 「巨人族である事も止めたようですね。 パラース……」 『……』 それは何かを喋っているようだが、ムウには野獣の唸り声にしか聞こえない。 しかし、沙織には敵の言葉が判るようだった。 「タルタロスへ戻れと言っても、無駄のようですね」 彼女は手にしていた棒を握る。 『……』 「言いたいことはそれだけですか」 『……』 一瞬、沙織の表情が変化する。 ムウはどのような会話がなされているのかが判らないことに、もどかしさを感じた。 (いったい、何の話をしているのだ……) しかし、どう聞こうとも、自分の耳には唸り声にしか聞こえない。 そして異形の獣は、ペガサスの神聖衣にしがみついている星華の方に突進したのである。 「危ない!」 間一髪でムウがパラースの前に立ちはだかり、クリスタルウォールを作る。 弾かれる異形の巨人。 だが、これによりムウは双児宮の呪術と敵の双方を相手にする事になった。 そしてどちらも気を抜けば、空間ごと崩壊が始まる。 (どこまで耐えられるか……) それ以上に、この衝撃の余波がどこまで広がるのか予測がつかない。 |