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「雨が降り出したな」
オルフェは天を見上げる。 厚い雲は雨を聖域にもたらす。 「そうだな……」 ダイダロスは再び崩壊した海辺の神殿後に立っていた。 この様な状況ゆえ、シオンはオルフェにダイダロスを見張る様に命じると、十二宮へ戻った。 ダイダロス自身はスニオン岬に行くつもりだったが、オルフェが見張り役についている以上、彼をスニオン岬に縛りつけるわけにはいかない。 何とも奇妙な状態で、二人は海へとやってきた。 |
少しずつ巧妙に壊されていく聖域。
ダイダロスはその光景を見るのが辛かった。 まずは女神アテナが降臨したと言うのに、教皇は巫女を置こうとはしない。 置ける訳がない。 神殿には、女神アテナは居ないのだから……。 だが、教皇の行動を疑問に思う事は許されない。 そしてそう思う事も気付かれてはならない。 むしろ、この異常な状態の中に何も知らない女性を神殿に置かずに済んだ事は、良い事なのかもしれなかった。 そんな時にダイダロスは、まだ幼かったジュネと出会う。 男だらけのアンドロメダ島で小さな女の子を弟子にするのは、ある意味正気の沙汰ではない。 聖域からもジュネを引き取ると打診があったが、手離さなかった。 (ジュネは勘の鋭い子だ……) 多分、状況が違えば女神の巫女になっていたかもしれない。 だからこそ、聖域には連れて行けない。 もしもジュネが聖域に女神が居ない事に気付き、向こうに知られたら大変な事になるからだ。 ならば逃がすのが一番良い筈なのに、ダイダロスはそうしなかった。 ジュネには特別な訓練を課す。 食事の為以外の殺生を禁じた。 そうでなければ、カメレオン座の聖衣は受け継げない。 あの聖衣をまとう者は、アテナの傍につく事を運命づけられる。 血の匂いをさせず、聖闘士として気取られずに女神アテナを守る者。 それがカメレオン座の聖闘士の役割だった。 ただ、実際にジュネが闘う時は、女神アテナを危険地帯から脱出させる為 の時間稼ぎとしてである。 敵を倒すよりも女神を守る事を最優先に考えるように教えた。 例え自分が命を落とす事になろうとも……。 ある意味、死なせる為に弟子を育てる。 その行為の矛盾に気が狂いそうだった。 そんな時に、瞬がアンドロメダ島にやって来た。 最初に瞬を見た時、 (この子は重い運命を背負っている) と、彼は直感した。 呪術的な紋様の刻まれたペンダントを、大事に持っていた。 多分、この子もまた何らかの神に選ばれた子供なのかもしれない。 (この子を聖闘士に?) 聖域からのルートではない。 本来ならば、受け入れるわけにはいかない子供。 しかし、何かを変えたいと望むなら……。 (あの子の運命に一石を投じることが出来るならば……。) 聖域が何かを言おうとも、構わないと彼は思った。 だが後に、ダイダロスは特殊な育て方をした少女に別の役割を見出してしまった。 |