ハーデス城の一室にてパンドラは箱を取り出すべく、幾つかの鍵の束を別の箱から取り出した。 「随分、頑丈に保管しているのだな」 エリスは呆れ返っている。
「当たり前だ。 これを聖闘士に取られるわけにはいかないからな」 むしろ、忌まわしい記憶を封じたくて頑丈に封印したのではないのかと言いそうになって、エリスは言葉を呑み込んだ。
今となっては、意味のない言葉だからである。 エリスの隣にミーノスが近付く。 そして彼は小さな声で話しかけた。 「女神エリス。
あれはハーデス様の策略でしょうか?」 「……そうだろうな。 冥闘士たちの前で自分がパンドラの望みを叶えれば、冥闘士たちはパンドラに従う」 その為に三巨頭の一人は非常に酷い目に遭ったのだが……。
エリスは可笑しそうに笑った。 「まぁ、嫉妬も半分くらいあるだろう。 冥王は自分の姉に近付く男の存在を、昔から善しとしていない」
「なるほど」 ミーノスは溜息をついた。 パンドラがフェニックスをエリュシオンに送った原因の一つは、実はミーノスが次元の壁によって消滅したという事だった。
その現場を見た瞬間、彼女は冥王が冥闘士たちを使い捨てにしている事を知ったのである。 しかし、最初に美しいハインシュタインの森から城へ戻り自分たちの現状を聞かされた時も、彼女は素直に自分が冥闘士たちを裏切った事を告げただけで言い訳はしなかった。
これはミーノスがパンドラの言葉の端々で察した推論である。 そして、それで十分だった。 「しかし、ギガースと地母神ガイアまで関わってくるとは面倒な話だ。
海将軍と聖闘士たちにも話をつけておかねばなるまい」 エリスの呟きに、ミーノスは驚く。 「何故?」 「地母神ガイアが余計な入れ知恵をして海か地上が先に制圧されたら、この冥界も只では済まない」
そこへ小さな箱を持って、パンドラがやってきた。 「エリス。これがアテナの箱だ」 差し出された箱を取ろうとして、逆にパンドラに箱を移動させられてしまう。
「何の真似だ」 エリスの目がつり上がる。 だが、パンドラは平然としていた。 「狡い交渉だという事は判っている。 だが、ギガースが復活したと聞いては、エリスの協力が欲しいのだ」
するとこの女神は口の端を歪めて笑う。 「私は争いの女神だ。 戦いを継続させる事は得意だが、勝利に導くのはアテナの役目だ。 例え地母神ガイアに請われても、ギガースに味方をするなと言うのなら考えよう」
相手がギガースたちではガイアが味方についている以上、長期化すれば向こうが勝つ可能性が高い。 神話では、ギガースのポルピュリオーンとアルキュオネウスは生を受けた場所で闘っている限り不死身だった。
タルタロスで新たな生を受けた彼らが、冥界にて不死身である可能性は十分に考えられる。 考えたくない話ではあるが……。 「それで十分だ」 パンドラはエリスの返事に納得すると、箱を渡す。
その時、箱の中で何かが入っているような音が聞こえてきた。 |