「さすがに統率が取れているな」
未だに目を覚まさないラダマンティスの傍で短剣を握りしめているパンドラに、エリスが話しかける。 ラダマンティスはまだ、目を覚まさない。
ミーノスは部隊のリーダー格の冥闘士たちに何か命令を出している。 「当たり前だ。弟の闘士たちは皆、私の誇りだ」 「結構な話だ。 ならばギガースとの戦いで、戦力に問題があるのは避けたい。
力を貸そう」 争いの女神は、そう言ってラダマンティスの頬を殴った。
「何をする!」 パンドラがエリスの手を掴む。 「優しく起こすのは性に合わないからな」
あっさりと言われて、パンドラもどう反論していいのか困ってしまった。 自分がいくら呼びかけても目を覚まさないのに、エリスの優しく起こすというやり方で彼が目を覚ましたら、非常に腹立たしく思えたからだ。
(腹立たしい? 何故だ??) パンドラは自分の考えに首を傾げてしまった。
そして当の本人は、何が起こったのか一瞬判らなかった。
「やっと起きましたか」 部下たちへの采配を、一旦終えたミーノスが近付く。 「何があったんだ?」 記憶が吹っ飛んでいるのか、ラダマンティスは周囲を見回した。
自分の傍にいるのは……。 「パンドラ様!」 彼女の握っている短剣を見て、彼は慌てて片膝を付いて礼の体勢を取る。 「パンドラ様。まことに勝手な事を致しました。
如何様にでもご処分を……」 いきなり自分を処罰してくれと言われて、パンドラは困惑してしまう。 (ラダマンティスの行為は規律違反なのだろうか?)
思わず悩み始めたパンドラに、エリスは溜息をつく。 「お前たち、内部でのゴタゴタは後回しにしてくれ。 私は早く箱を受け取りたいのだ」
この時、全員がようやっと自分たちがここに居る理由を思い出す。 「バレンタインたちはラダマンティスの手当と、今の状況を説明しなさい。
私がパンドラ様に付き添います」 ミーノスの有無を言わせない穏やかな言い方に、ラダマンティスは異論を唱える事が出来なかった。 怪我人である自分が一緒にいった所で、邪魔にしかならないからである。
「ラダマンティス。其方は、まず怪我を治療するのだ。 処分については追って連絡をする」 女主人の言葉に、彼は深々と頭を下げた。 |