人であったがゆえに持ちつづけた心が冥界の秩序に反発するならば、魔星は速やかに所有者を滅ぼす。 例え巨大な力を有していても、そうやって己を律する事が出来ねば冥界が危険に晒されるからだ。
厳格な秩序と統制の中で機能する世界は、裏を返せば流動的かつ突発的な事態に対して過剰反応を引き起し、修復するのに時間がかかる。 ところが三名の冥闘士たちは、力は自分だからこそ与えられたと過信してしまったのである。
過信は越権行為を正当化する。 だが、それは冥界を混乱させる。 それゆえ、魔星は所有者を滅ぼす判断を下し、冥衣は所有者を守る事を放棄した。
しかし、敵対する三名の聖闘士は目的の為に己を最大限にまで制御していた。
そして彼らも星の宿命を持っていた。
光か魔か。 神々から見れば、ほんの僅かな差。 根底に存在するのは、神の闘士としての誇りだった筈。
しかし所有者を破滅させた魔星と冥衣には、もうどうでも良い事だった。 聖闘士たちが脱け殻となった冥衣を利用しようとも、時間が来れば冥界へ還るだけの事。
ただ、その瞬間の冥衣たちは己の所有者の不甲斐なさを嘆く。 敵といえども誇り高い聖闘士たちに、自らの次の所有者の夢を見ていた。
『パンドラ様は、我々を裏切った』 その時、誰かが囁く。 『裏切ったのが真実ならば、処分せねば。』
言葉はまるで何かのタガが外れたかのように一部の冥闘士たちを奇怪しくさせる。
彼ら三名も、再び人の思考に呑み込まれる。 魔星と反発する自己。 冥王が選んだ存在を冥闘士が己の裁量で攻撃する事は、闘士として過ぎた振る舞い。
全ては冥王様の御心のままに。 だが、囁かれた言葉の威力は、凄まじいまでの力があった。 |