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魔星 1

闇に侵蝕されるハーデス城。
確かに冥界と闇は切っても切れない関係ではあるが、パンドラ達の前に現れた『それ』は何か異様な気配を伴っていた。
その闇は、今や周囲の城の壁までも呑み込んでいる。

「変わり果てた仲間を見るのは、忍びないですね」
グリフォンのミーノスは速やかに問題を処理すべく、先制に打って出た。
のんびりとしていては、地下牢前にて見張りをしていた筈の部下たちが危ないと判断したからである。

「コズミック・マリオネーション!」

ミーノスは見えざる糸によって、目の前にいる冥闘士たちを縛りつける。
だが、問題はそんなに簡単につくものではなかった。
「ミーノス。離れろ!」
ラダマンティスが咄嗟に叫んだ。 その闇が、ミーノスの糸を掴んだのである。
黒い光が三巨頭の一人に向かって、突き進む。
「面倒な!」
エリスが白い杖を振るう。
「!」
突如、床に魔方陣が現れ、黒い光はグリフォンの冥衣に到着する寸前で止まった。
だが、光は尚もミーノスに向かって進もうとしている。
「ちっ。ここはどうやら、私の力は制御されているな」
どのような場所でも、そこを支配する神が存在する。
そして力と言うものは、その神の許可なくして100%発揮されると言う事はない。
この不文律は、女神エリスといえども例外ではなかった。
「ミーノスを一旦退かせる事は出来ないのか!」
パンドラがエリスの腕をつかんで尋ねる。
「……パンドラは持っているだろう。 この城の支配者の力を……」
その言葉にパンドラは自分の腰にある黒い短剣を持った。
「パンドラ様! お止め下さい」
ラダマンティスはパンドラを引き止めようとしたが、それをエリスに拘束という形で止められる。
「貴様!」
「所詮、お前たちは魔星に制御されている存在だ。仲間を手にかける事は出来ん。
これはパンドラの役目だ」
その嘲笑うような笑みに、ラダマンティスはエリスの恐ろしい一面を見た。
(この女神は最初からそれを知っていたのか!)
こうなる事を知っていて、争いの女神は三巨頭と約束をしたのである。
三巨頭の手を汚すパンドラの血。
それは自分たちが手をかけるのではなく、危険に対峙するパンドラに対して何も出来なかったという証明の為のものだったのだ。
「ラダマンティス。心配をするな。
私は弟と約束したのだ。
お前たちと弟の帰りを待つとな」
そう言って、黒の女王は短剣を抜くとミーノスへと近付いた。
「パンドラ様……」
「今、助けるからな」
パンドラはそう言って、ぎこちなく笑うと短剣で黒い光の糸を振り払った。