「ダイダロス。お前は何を知っているのだ?」
聖域の町では教皇シオンがようやっと目的の人物を見つけた。 そしてこの問いかけに、ケフェウス星座の聖闘士は表情を強張らせる。 オルフェは親友の様子をじっと見た。
「お前のした事は呪術の領域だ。本来、聖闘士が使える技ではない。 いったい誰からそれを教わったのだ?」 いきなりの本題。 ダイダロスは尊敬する教皇の顔を見た。
「……まったくの独学です」 何かを吹っ切った様な笑みに、シオンもオルフェもダイダロスがこの問いに関して正直に答えるつもりがない事を悟った。
しかし、だからと言ってそのままに出来る問題でも無い。 シオンは努めて冷静に尋ねる。 「……ダイダロス。 呪術を使うと言う事は、お前が女神アテナ以外の神と何らかの契約をしたと言う事だ。
それは聖闘士として許される事ではない。 知らなかったとは言わせぬ……」 シオンの言葉に、オルフェは親友を再び見る。 自分もまた恋人の傍にいたいが為に、自分の竪琴の音色を聞かせるという契約を冥王とした。
聖闘士としての誇りを曲げてまで手にしたかったもの。 オルフェにはその気持が判らない訳ではない。 他の者がどう思おうとも、何よりも大事なものというのは存在する。
それ故、オルフェにはどうしてと言う事よりも、親友が自分の望みを叶える為に何を犠牲にしたのかという事の方が気になった。 (ダイダロスは何をどの神に捧げたんだ?)
当の本人は相変わらず静かに立っていた。
「シオン様。 私が呪術について調べたのは、それを使う敵が現れた時に対処出来る様にしておきたかったからです。
他には理由はありません。 先程、結界を壊せたのも偶然です」 殆どゼロに近い偶然を信じろと言われても、納得出来る訳がない。 だが、相手は頑として真実を言う気が無い。
シオンは相手に揺さぶりをかける事にした。 「……ダイダロス。 このままではお前は反逆者だ。関係者にも類が及ぶぞ」 これが卑劣極まりない脅迫である事は判っている。
するとダイダロスは俯いた。 「ならば、ここで私を捕らえて下さい。 スニオン岬の水牢へ行った方が宜しいでしょうか? とにかく弟子たちは何も知りません」
「…………」 その落ち着いた返事を聞いた時、シオンにはこれ以上の詮索は無理だと言う事が判った。 (ダイダロスは全てを覚悟している……) 弟子たちが自分を脅迫する為の材料にされる事も、自分自身が命を落とす事になるかもしれないという事も……。
「ならば、後でお前の処分を決める。それまで聖域から出てはならない。 そして、これ以上呪術を使うな」 シオンの命令にダイダロスは片膝をつき頭を下げた。
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