「ミロ。仮面の掟は女性聖闘士に対してであって、聖闘士候補生には本来無効だ」 「無効?」 「そうでなくては、訓練を始めたばかりの女性候補生は、あっと言う間に資格を失ってしまう」
改めて言われて、ミロはそういう事態に納得してしまった。 確かに今回は全責任が自分にあると考えてしまったが、訓練を始めたばかりの候補生は青銅聖闘士が気配を隠しても、やはり気付かないだろう。
「何だ、そうかぁ」 ミロは素直に喜ぶ。 しかし、アフロディーテはそんな蠍座の黄金聖闘士を睨み付ける。 「裏を返せばそんな事も知らない愚か者の烙印を押される所だったのだぞ。
安易に喜ぶな!」 思いっきり怒鳴られて、ミロは首をすくめた。 「まったく、ダイダロスに残ってもらう必要は無かったな。
むしろ恥をさらしたくらいだ」 ミロは馬鹿にされた事に腹を立てたが、言い合いでアフロディーテに勝てる訳がない。 そのままそっぽを向く。 その時、ダイダロスと視線が合った。
「……でも、蠍座のミロ様の判断は、正しかったと思います。 掟を曲解されて大事になったら、その少女の命もさることながら、彼女の師匠はきっと内なる怒りを抱えていたと思います」
ダイダロスは視線を下にして、静かに言う。 女神と正義の為に戦って命を落とすのは聖闘士の定めとしても、仮面の掟で候補生の弟子が死ぬような事を、残された者たちが納得出来る訳がない。
何故見逃してくれなかった。どうして察知させてくれなかった。 もしかしてわざと葬る為に謀ったのかと遺恨が残る。 「ダイダロス。ミロを褒めるな。
こいつは痛い目に遭わないと忘れる」 アフロディーテの言葉は、十分痛かった。
「だが、迂闊にこの事を他の人間には言うなよ」 魚座の黄金聖闘士はミロを横目で見る。
「何で?」 「お前を陥れる材料として、その少女が利用されるぞ」 その言葉に、部屋の空気は一気に重くなる。 「アイオリアを見てみろ。
人間の疑惑と嫉妬心は、獅子座の黄金聖衣が選んだ闘士を逆賊の弟として扱う」 謎の多いアイオロスの女神アテナへの反逆。 確かに何が真実なのか自分は判らない。
だが、これによりアイオリアはかなり動きを封じ込まれているのも事実である。 聖域において闘士たちの地位は高いが、闘士たちだけが聖域を支えている訳ではない。聖域の外に住む関係者の中には、闘士の力を恐れている奴らもいるだろう。
闘士の力を頼もしく思いながらも恐怖を感じる者たちは、より強固な手綱を作る材料を探しているのかもしれない。 「今は深く考えるな。どうせ時期が来ないと、本当の事は判らない」
アフロディーテは投げやりな言い方で、ミロの思考を中断させた。 |