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露顕 4

「……しっかりしろ!」
遠くに聞こえていた声が、はっきりと聞こえてくるようになった。
それと同時に、シャイナは誰かが自分の頬を軽く叩いている事に気がつく。
「……起きないな……。
こうなったら、もうちょっと強い刺激でも与えるか」
不穏な言葉が聞こえてきたので、彼女は慌てて目を覚ます。
するとそこには一人の青年の顔があった。
顔が判ると言う事は、周囲に明かりがあるんだと彼女は考えたのだが……。
「!!!」
その青年の端正な顔は、自分のかなり近くにあった。
彼女は反射的に相手を引っぱたこうとしたのだが、相手は蠍座の黄金聖闘士。すぐに自分の右手首は、ミロに掴まれてしまう。
「やっと起きたか」
相手は嬉しそうに笑う。
「ミロ!
何を呑気に笑っているんだよ」
意識を失っているミロを見た時、自分がどんなに心配したかと言いそうになって、シャイナは言葉を呑み込む。
こんな痴話喧嘩みたいな言葉は、ミロに対して言う権利も義務もなければ役目でもない。
「とにかく、世話をかけたね。 私はもう大丈夫だよ」
一応、自分を気遣ってくれた事に感謝の意を示しておく。
だが、彼女は蠍座の黄金聖闘士から離れる事も立ち上がる事も出来なかった。
彼がシャイナの右手首を離さないのだ。
「ミロ。ちょっと離してよ」
「……あっ、すまない。 シャイナの顔に見とれてた」
いきなり自分の顔の事を言われて、彼女は恥ずかしさと悔しさのあまり左手でミロを殴ろうとしたが、やはり右手と同じように相手に手首を掴まれてしまう。
「何をそんなに怒っているんだ!」
「煩い! どうせ私は仮面の掟に殉じる事が出来ないよ」
星矢を命を捧げてもいいと思うほど愛していても、彼は答えてはくれない。
彼は自分に関心が無いのだ。
それでも星矢を憎む事は出来ない。
気持ちの行き場がない自分を目の前の男が嘲笑っているとシャイナは感じて、思いっきりミロを睨み付ける。
「こんな中途半端な聖闘士、笑いたければ笑えばいいだろ」
彼女の言葉にミロはそれこそ怒りの表情になった。
「俺を見損なうな!」
「……」
「俺はお前が中途半端な聖闘士だと思った事は一度もない!」
意外な言葉に、シャイナの方が驚く。
何て反論したらいいのか判らず自分の顔をじっと見ているシャイナに、ミロは思わず呟いてしまった。
「まったく……、こんな事ならさっさと名乗りを挙げとけばよかった」
そして二人の間に奇妙な沈黙が流れる。
シャイナは呟かれた言葉の意味が判らず、そしてミロは失言をしたと言う表情をする。
「名乗りって……なんの事?」
彼女の真っ直ぐ自分を見つめる眼差しに、思わずミロは視線を逸らしてしまう。
「ミロ!!」
すると彼はいきなり間近で顔を寄せる。
「……教えない。 絶対に言わない」
そのような返事で納得出来るシャイナではないが、いきなりそのような事をされては掴みかかるタイミングを失ってしまう。
彼女はそういう状況に免疫がない。
そんな戸惑っている彼女を見て、ミロは立ち上がる。
「さて、何処だか判らない場所に居続けるのも性に合わない。 とにかくこの場を脱出するぞ」
助けに誰かが来てくれるという考えは、ここでは成立しない。
黄金聖闘士の顔になったミロはシャイナを肩に掛けるかの様に持ち上げた。
「ちょっと、名乗りって何なの!
一人で歩ける!!」
シャイナは暴れるが、彼はそんな彼女を睨み付けた。
「大人しくしていろ。 それにシャイナは俺の動きに付いてこれないだろ。」
そう言われると、格が違うのだからシャイナとしてはミロに従うしかない。
「でも、これじゃ……ミロの足手まといだ……」
「大丈夫だ。シャイナはどんな時でも俺に力を与えてくれる」
恥ずかしい台詞を臆面もなく言われて、シャイナの方が恥ずかしくなった。