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露顕 3

(ジュネさんは先生の弟子の中で唯一の女性聖闘士だったから、今思えば微妙な所で皆はジュネさんに対して気を遣っていたなぁ)
彼らは少なくとも無理矢理ジュネの仮面を取るような事をして、彼女に決断を強いる事はしなかった。
その兄弟子たちが今、ジュネと会っているのかもしれないのである。
自分は酷い事をしたので、彼女はもう自分に対して好意を持っていないような気がしてしまう。
もしかすると彼女は嬉しそうな様子で、兄弟子たちと談笑をしているかもしれない。
(あぁもう、煩い!)
瞬は強制的に思考を中断する。
だが、しばらくすると再び彼女の事を考えていた。

『女性聖闘士は素顔を見られたら、その男を愛するか殺すしかない……』

瞬も師匠から仮面の掟の事は当然教わっていた。
しかし、ひょんな事で星矢から聞かされたその掟自体が、聖域とダイダロスの教えでは理解の仕方が違っている事には驚いてしまった。
(先生は仮面の掟は聖闘士同士の潰し合いになるから、僕らが気をつけないといけないって言っていた………)ただ、ジュネにとって仮面を外すと言うのは、やはりかなりの覚悟があっての事だという事は理解しろと言われた事がある。
自分たちはその気がなくても、当時の聖域が何らかの横槍を入れてジュネに掟に従う事を強要するかもしれない。
たとえ些細と思われる事でも、規律を破る事は許されないのだ。 規律を破る事は、聖域には従えないと言う意思表示に取られかねないから。
だが、彼女には相手の男を殺す事は出来ない。
敵と言えども相手を倒し止めを刺す技術を彼女は持っていない。
それでも彼女がもし誰かを愛する道を選べば生きていてくれるが、意に沿わぬ結論に従えない女性聖闘士は人知れず己を殺す道を選ぶ事がある。
(先生はそれを物凄く警戒していた……)
何故、同じアテナの聖闘士なのに、こんなにも扱いが違うのか。
何故、それでも運命の星は女性たちを聖闘士にしたのか。
本当に自分たちが気をつけないと、あっと言う間に女性聖闘士は一人残らず居なくなってしまう。

なのに聖域では、むしろ彼女たちを潰しかねない掟がまかり通っている。

「おい、もう良いぞ」
ミューに持っていたボウルを取られた時、瞬は既に卵白が綺麗に泡立っている事に気がついた。
質の良いメレンゲが出来たのだが、そんな事は瞬には判らない。言われた通りに泡立てていただけである。
「本当に大人しく泡立てているとは思わなかった」
相手は呆れたように言うが、瞬は回想により発生した怒りの気持ちをすぐに納める事が出来ず、椅子に腰掛けるとそっぽを向いて答えた。
「別に……、たいした事じゃなかったから……」
冷静に対処しようと心がけるが、どうしても怒りが押さえられずにいる。
暴走した思考に引きずられていると言うのは、何とも恥ずかしい。
「瞬?
何か気に障る事でもあったの??」
貴鬼は不思議そうに話しかける。
「何でもないよ」
彼は無理矢理笑顔を作った。
だが、ミューの対応は冷やかだった。
「大方、女の事でも考えていたんだろう」
瞬は椅子から転げ落ちそうになった。