(ジュネさん……)
彼女の姿を思い出して、瞬は一瞬表情を曇らせる。 「どうしたの?瞬」 「……あっ、何でもない。 お茶を注ぐよ」 慌てて誤魔化したが、瞬はこの時、ある事を考えてしまった。
(ジュネさん。先生との再会は喜ぶかもしれないけど、僕の事は喜んでくれないかも……) 考えれば考える程、思考は後ろ向きになる。 (聖域では兄弟子たちを見かけなかったけど、もしかすると復活した場所はアンドロメダ島だったのかな?
先生に女神の試練の話をした時、そんな事呟いていたし……。 そしたらジュネさん、皆とはもう再会したんだろうなぁ) 既に瞬の中でジュネはアンドロメダ島に戻っている事が前提になっていた。
確定材料は無いというのに……。 しかし、瞬にはそれ以外の事態は考えつかない。 「瞬! お茶が!」 貴鬼の声に、瞬は空中で止まっている紅茶を見る事になる。
ポットから出ている液体はサイコキネシスで止められていおり、何だか異様なオブジェのような気がしてしまった。 「あっ、ゴメン」 ポットをテーブルに置くと、液体は注ぎ口から中へ逆流した。
「何をやっているんだ」 城の様子を見て回った後、厨房に戻ったミューは、その様子を見て少々頭が痛くなる。 (敵地でぼんやり考え事をするな!!)
彼は思わずそう怒鳴りそうになる。 「あっ!戻ってたんだ」 瞬の間抜けな応対に、ミューは一層怒りを感じた。 もしかして自分はナメられているのかと、考えてしまったからである。
あまりの腹立たしさに、彼は一つの嫌がらせをする事にした。
そして瞬の目の前に、卵白のたくさん入ったボウルが差し出される。 「何これ」
瞬はミューの顔を見る。 「見てのとおり、卵白だ。 泡立てろ。 そうすれば考え事をしていても、仕事をしていると思っていてやる」
既に自分の隣では、貴鬼が何をやるのかと自分の事を見ていた。
何となくお菓子を作らされる気がしたのだが、ミューにいちいち逆らうのも疲れる話なので、あえて言われた通りにする。
何で此処にいるのか判らなくなりそうだが、何かしらやっていた方が後ろ向きになりつつある思考から抜け出せると思った。 だが、実際は思考を切り換えるどころか、もっと憂鬱な気持ちになってしまった。 |