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侵蝕 2

それは冥闘士創立時の物語。
ティータノマキアがオリュンポス神族の勝利で終わった直後、競いの女神は大神ゼウス・海皇ポセイドン・冥王ハーデスの三神に呼ばれた。

近いうちに起こるであろうギガースたちとの戦いでは、神々のみでは勝利出来ないと言う予言が、とある女神により伝えられる。
これからの時代、来るべき戦いの時に人間たちの協力を得られるようにしたい。 その為には常にどの時代で戦いが起こっても、ギガースたちに後れを取る事なく、特別な人間の登場を待つのではなく、万全の体勢を作っておきたい。
三神はそう考えた。

その話を聞いて、競いの女神は正直言って乗り気ではなかった。
面倒だと言うのもあったが、そもそも代替わりをしていくうちに人間の思考は変化してしまう。
人間たちに力を与えて逆に災いにでもなったら、世界中の生きとし生ける者たちへの被害は膨大なものになる。
だが、ギガースたちがタルタロスから出てくれば全てが終わると説得されて、彼女は地上と海と冥界に闘士たちを配属させるシステムを作り上げた。

これから生まれてくる命を守る為に……。
その切なる願いの為に、他の女神たちは闘士たちに祝福を与える。

その時、競いの女神は冥王より一つの依頼を受けた。
彼の大事な姉である豊穣の女神と自分の妃である冥界の女神を、力を得た冥闘士たちが傷つけるような事は遭ってはならない。
そして、なによりも冥界は死を司る場所である。
元は人間である冥闘士が、その力を過信して好き勝手な事をし始めれば、別の意味で世界は混乱してしまう。
彼女は冥王の言い分はもっともだと思い、彼に対して一つの提案をした。

それは冥闘士たちに、魔星をその身に持っていてもらうという事。
魔星は常に冥闘士たちを守ると共に、監視をするのだ。
冥衣は魔星の所有者と共にいるが、万が一、所有者が傲慢さを身につけ己の分を超えた行為をした時は、その魂を喰らい始める。
そして魔星はもう一度、主選びをやり直し、冥衣はしばらく眠りにつく。


「だが、今の状態の冥衣たちは、主を滅ぼしてでも敵を倒したいと言う欲求が強くなっている。
何かが冥衣たちを狂わているのかもしれない……」
エリスの話に、一緒にいたパンドラと冥闘士たちは二の句が告げなかった。
「……その話は本当なのか」
ラダマンティスに抱き上げられたまま、パンドラはエリスに話しかける。
「今更、嘘を言ってどうする。
創立の一件には私も関わっていたのだ」
エリスは決して自分の事だとは言わない。
「その競いの女神は、今どうしているのだ?」
そのような残酷な宿命を未だに冥闘士たちが背負っている。
パンドラとしては何とか終わらせたいと思った。
だが、争いの女神はパンドラを一瞥した後、吐き捨てるかのように返事をした。
「ある事件がきっかけで、神々を呪いながら何処かへ行ってしまった」
誰も、何も言えなかった。