「……でも、貴方が言ってくれなかったら、多分僕らはエスメラルダさんに無理を強いていたと思う」
「……」 敵とはいえ、ミューは一人の少女に休息場所と時間を与えてくれたのだ。 どう考えても彼の行動に、自分たちは助けられている。 「だから、ありがとう。
どんな事情であれ、凄く助かった」 瞬は言いたい事を言い終えると、再び厨房の掃除を始める。 ミューは椅子に座って瞬を一瞥した後、難しい顔をした。
(まったく聖闘士の手助けをするなど……) 彼は溜息をついた。
そして一輝とエスメラルダの方は、貴鬼がお弁当を持ってきた事に目を丸くする。
「作ったのは瞬だよ」 バスケットの中身を見せながら、貴鬼は説明をする。 「こっちはお茶。 あの冥闘士が淹れてくれたんだけど、オイラも飲んだし大丈夫だよ」
貴鬼は一輝にバスケットを渡す。 「何故、冥闘士が?」 「あの冥闘士がエスメラルダさんは休憩が取れる時は、ちゃんと取っておかないと身体がもたないって言ってた。
闘士じゃないから無理はするなって」 その言葉を聞いて、エスメラルダは俯いてしまう。 「やっぱり私、足手まといなのね……」 彼女の誤解に貴鬼はぎょっとしてしまう。
そして一輝はエスメラルダの肩に手を回す。 「エスメラルダ。それは違う。 必要だからエリスはエスメラルダをここへ連れてきた。 それにどんな闘士も休息を取らねば戦いつづけられない。
今は休む事が仕事だと思えば良い」 エリスは何の為にエスメラルダをここへ連れてきたのか、そしてまだ彼女に何かをさせるつもりなのか。 詳しい事が何も判らないので、一輝としても彼女の体力が妙な遠慮で削られる事は避けなくてはならない。
弟が作ったと言うのなら安心して食べさせる事が出来るので、彼はエスメラルダを近くの芝生へ連れていくと、そこで食事をさせる事にした。
貴鬼は一輝にバスケットとポットを渡すと、また何か用事があるかもしれないと言って城に戻ってしまった。 そしてバスケットの中のサンドイッチは、ゆうに三人分はあった。
(俺にも食べろと言うのか!) この弟の気遣いに、一輝は苦笑してしまう。 確かにエスメラルダ一人だけに食事を取れと言っても、彼女は遠慮して食べない事も考えられる。
「瞬はかなり作ったらしい。 残すとあいつが怒りかねないから、二人で食べよう」 一輝の提案にエスメラルダは嬉しそうに頷いた。 |