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休息 1

「よいか。ここから先はこちらの管轄だから、近寄ってはならぬぞ」
ハインシュタインではパンドラが、エスメラルダと貴鬼に庭の奥にある小屋の前で懇切丁寧に説明をしていた。
彼女曰く、ちゃんと教えないでおいて問題が発生した場合、冥界側が言いがかりを言っていると思われるのが我慢ならないらしい。
「分かりました!」
貴鬼は元気よく返事をする。 エスメラルダも可愛らしい声で返事をした。
その様子を見て、ラダマンティスは渋い顔をしている。
(パンドラ様は、何故この様な重要な場所を軽々しく教えるのだ)
思わず、鳳凰星座とアンドロメダ座の聖闘士達を睨み付けてしまう。
「ラダマンティス。 ここが重要なのはその通りですが、逆にこの穴を聖闘士たちが利用して冥界へ来たら、簡単に処分出来るのですから無駄が省けますよ」
ミーノスはあっさりとした口調で、ラダマンティスの杞憂を笑った。
自分たちの知らないルートを作られる方が、ずっと問題だったからだ。
「……ところでエリス。
本当にミュー以外の冥闘士たちも連れて行くのか?」
小屋の前で立っている女神にパンドラは話しかける。
「これから人が来て、この城は色々と賑やかになるらしいぞ」
午後になれば城で働く事を希望している婦人達が、村人と共に城にやって来る。
正直言ってミューひとりにその役目をやらせるのは、酷な様な気がした。
だが、エリスは険しい表情でパンドラの方を向いた。
「駄目だ。パピヨン以外は安定していない。
こっちは急いでいるんだ。さっさと降りるぞ」
謎な事を言ってエリスはさっさと小屋の中に入る。
パンドラはその時ちらりと瞬のほうを見る。
(そうだ! あの女聖闘士は聖域に戻ったのだろうか?
後で忘れずにアンドロメダにでも聞いておかねば……)
全然知らないという間柄ではあるまいと、彼女は勝手に判断する。
しかし、今はそういう話をしている場合ではない。
彼女は自分の部下の方を向いた。
「では、ミュー。後を頼んだぞ」
パンドラはそう言ってエリスの後を追う。
女主人の言葉に、ミューは一瞬言葉につまる。
聖戦の前はほとんど言葉を交わした事のない存在に、直々に言われたのだから。
自分達の女主人は、確かに穏やかな雰囲気を少しずつ示し始めている。
そうなると聖戦前の氷の様な冷たさは、いったい何処へ行ってしまったのだろうかと思う。
そして冥闘士たちが次々に小屋の中へ入ると、後には留守番役が残された。

よりにもよってと、ミューは思った。
(何故、聖闘士共の面倒を見なければならないのだ!)
メンバーの中には牡羊座の弟子がいることが、余計にミューの神経を苛立たせる。
瞬はそんなミューの様子を見て、控えめに話しかけた。
「あの……、何か手伝おうか?」
その台詞にミューの表情はさらにキツくなる。
「お前たちに手伝って貰う事などない!」
その声にエスメラルダが不安げな表情になった。
一輝は素早くエスメラルダを自分の背に隠す。
そんな空気に慌てて瞬はその場を取り繕う。