『パラス……』
当時居た六名の海将軍も、海闘士たちも、彼女の“聖域を責めないで欲しい”と言う最後の依頼を守って、誰一人として聖域を攻撃しなかった。 後日、多くの海の女神たちから罵られようとも、彼女との約束を彼らは選んだのだ。
(やはりお前は、我等オリュンポス神族を追い詰めるに相応しい者だったのだな) ポセイドンは眼前の敵を、厳しい眼差しで睨み付ける。
『お前との関わりを、もっと別な方法で行えば、今でもお前はここに居てくれたのだろうか?』 彼はそう呟くと、三叉の戟を影に向けた。 既に影は氷の中で実体を伴っている。
(パラス。私はお前と言う孫娘を持った事を、誇りに思おう……) だからこそ、巨人族のいい様に海を荒らされる訳にはいかない。 ここは孫娘とその覇権を争う宿命の地なのだから。
他の敵に用はない。
そしてポセイドンは、ギガントマキアからの因縁の敵であるポリュボーテースに、渾身の力で三叉の戟を投げつけたのである。
深々と巨人の身を貫く海皇の戟。 その叫び声に、海底神殿全体が震えた。 「シーホース。こいつを砕け!」 カノンの命令に、バイアンは痛みをこらえながらも迷う事無くゴッドブレスを使う。
「クラーケン。粉砕された影を凍らせろ!」 続けざまにカノンは怒鳴る。 アイザックは頷いて、今度はバラバラになった巨人の身体が一つになる事を阻むかの様に、永久に溶ける事のない氷で影を包み込む。
粉砕され氷漬けにされた巨人の身体は、再び元に戻ろうとぶつかり合うが、決定的に力が足りない。 そして人の拳くらいの大きさの影を包んでいる氷は、異空間に吸い込まれてゆく。
それはまるで見えない水の流れに、光を流すかの様だった。 そして異空間は粉々になった巨人の身体を呑み込むと、静かに消える。 後には荒れた中庭が残された。
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