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誇り 3

海底神殿の中庭は一見すると、ぶつかり合う力が奇妙なバランスを保っていたが、これではどちらも身動きが取れない。
自分たちの主がどう動くのかも判らないし、何よりも攻撃の決定打がない。
だが、早く対処しなければ、一般人である春麗の身が危険だった。

『……海皇様。予言は従い続ければ確かに成就しますが、それでは何も変わりません』
いきなり聞こえてくる依代の声に、ポセイドンは驚く。
『……私は世界中を旅して、運命に立ち向かう人々を見てきました。
例え人間は死すべき存在でも、どう生きるかは本人に委ねられています』

『だからどうしたと言うのだ……』
『予言の先に待っているものは、どのようにでも変えられるとお思いになりませんか?』
ポセイドンはジュリアンの言葉に沈黙する。


予言の先にあるもの。
ならば、自分たちの次の世代の神族の中心と言われた孫娘とは、何かをすれば今とは違った結末になったとでも言うのだろうか。
ティータノマキアにおいて、自分は他の兄弟に対して負い目の様なものを感じていた。
それ故に、姉たちや兄弟たちを傷つけようとする次の世代の神々が誕生した時には、今度こそ兄弟たちを守ろうと心に誓った。
だが、皮肉にもその予兆を持ったのは、自分の最愛の孫娘。
彼女には、あらゆる古の神々、女神たち、精霊たちまでもが味方についた。
穏やかで愛情あふれる性格でありながら、武芸に秀でた猛き女神。
彼女が味方する存在こそ、次の主神となる者であろうと誰もが思ったのである。

だが、孫娘の存在は別な意味でも危険だった。
崩壊は静かに始まる。
女神テティスの恋。孫娘はその恋を応援すると言う。
同じ頃、シードラゴンの鱗衣が、スパルタの王子であるカストールを生涯の主に定め、他の者を拒絶すると報告があった。

「ならば、来てもらえば良いのです」

孫娘は屈託なく笑う。
彼女にとってテティスの恋は、成就して当然のものだった。
それでも他の神々の危惧を知らない訳ではない。
ただ、カストールとテティスの間に情愛があるのだから、生まれてくる子供が神々にとって敵になる事はないと彼女は判断したのである。