巨人の影は氷がヒビ割れた所から、自らの身体を槍のように伸ばす。 それは物凄い勢いで、この場所で最も弱そうな人間に対して襲いかかる。 「危ない!」
星矢は春麗とソレントの前に立ちはだかったが、それよりも前に一人の男が己の身を盾にした。 「バイアン!」 星矢は思わず叫んでしまう。
巨人の攻撃はシーホースの鱗衣の右肩の部分を砕く。 「生身のお前に怪我をさせたとあっては、海将軍の名折れだ。 お前は大人しくしていろ!」
そしてシーホースの海将軍は、巨人の槍を粉砕する。 肩から血が流れたが、バイアンは構わずに尚も戦闘態勢を崩さずに居た。
彼女はその場面を、驚きながら見つめる。
『何故、カストール様が……。 どうしてここにペガサスが……?』 テティスの呟きにイオは首を傾げる。 「どうした。テティス」
しかし、彼女の耳にはイオの声は届いていなかった。 『あぁ……、この光景をあの子が見たら……』 テティスはそう言って一滴涙をこぼす。
『……』 そして何かを呟いた後、彼女は気を失ったのか急に身体が重くなる。 イオは改めてテティスが自分から離れない様に体勢を取り直した。
影は氷の中で絶えず暴れる。 ポセイドンはその影に、違和感を感じた。 (ガイアめ。怒りに駆られて、ギガースたちに力を与えたな) 既にギガントマキアから長い月日が経っている。
一度は死を与えたとはいえ、相手は地母神ガイアが全面的に味方をしている巨人族。 以前の巨人族ではない何かに変容している可能性もある。 (予言から切り離す為に、何かしらの薬草を施したか!)
ギガントマキアの時、ギガース一族には一つの予言が下されていた。 それは神々のみでは滅ぼされる事はないが、人間が味方をした時は滅ぼされるというものだった。
その予言を回避する為には、人間にも滅ぼされない様に薬草を施す事が必要だった。 だが、そのような事を成就させる訳にはいかないオリュンポス神族に、地母神ガイアは薬草を全て奪われてしまう。
そして予言通り、ギガース一族はヘラクレスという味方を得た神々に滅ぼされたのである。 (女神ニュクスの予言は……) 海皇は敵の影を見つめた。
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