海底神殿の中庭は海皇の登場により、それを待っていたのかの様に周囲の水が光を含んで輝きだす。 『テティス。久しぶりだな。 いや、お前にとっては久しぶりでも何でもないな』
ポセイドンの見つめる先に、光は集まりだす。 そして姿をみせたのは、人魚姫の鱗衣をまとう少女。 だが、その眼差しは怒りに満ちていた。
海底神殿へ向かう途中で、カノンは何か得体のしれないモノの気配を感じた。 シードラゴンの鱗衣が何かに反応しているのかの様に、淡い光を放つ。
「どうしたんだ? カノン」 星矢も一緒に立ち止まる。 これから行く場所は、一度は敵対した場所なのである。 どんなに心が急いでいても、カノンと一緒でないと逆に他の海闘士達とトラブルになる事は判っていた。
「……ペガサス。 もし、海底神殿で何かが起こったら、あの少女を連れて聖域へ戻れ」 カノンはそれだけを言うと、星矢の返事を聞かずに再び海底神殿へ向かった。
星矢は少し首を傾げながら、カノンの後を追う。 彼らの通った場所の岩影に、黒い何かが染みだしては再び消えた。
『テティス。 お前が私を許せないと言うのなら、この戟で私を貫いてみせよ』
ポセイドンの申し出に、海将軍たちは驚く。 『ただし、チャンスは一回だけだ。 し損じれば、今度は私がお前を攻撃する』 彼はそう言って自分の手の中にあった三叉の戟をテティスに渡す。
彼女は自分の手の中に現れた武器を見つめる。 『どうした。今まで願いつづけたのだろう。 その心を壊すほどに……』 ポセイドンの言葉に、春麗は驚く。
(違う! テティスさんは、私には優しかったもの) 例え海皇の言葉もまた真実だとしても、それを全てにされたくはない。 春麗は傍にいた海将軍の意識が自分に向けられない事に気付くと、テティスに駆け寄り、その腕にしがみついた。
「春麗さん!」 ソレントは少女のいきなりの行動に驚いてしまう。 まさか自分から危険に近付くとは思わなかったのである。 |