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続・嫉妬 3

聖域ではダイダロスとオルフェが海辺を離れて、聖域の町の中を歩いていた。
(何処まで隠し通せるか……)
オルフェは自分の仕出かした事を薄々勘付いているだろう。
ただ、問い詰めないのはこちらから話をする事を、待っているのかもしれない。
(だが、言う訳にはいかない)
それが約束であり、自分に与えられた罰なのだから。
許しは請わない。
万が一許されでもしたら、自分には何も残らなくなってしまう。
今となっては自分の罪だけが、大切な弟子の生きていた証なのだから……。

きっかけは一冊の本。
13年前、聖域の書庫に何気なくその本は置かれていた。
神官たちは異国の本だと簡単に説明した。
知恵の女神でもある女神アテナは知識に関する事の収集を奨励していたので、書庫には古い書物がたくさんあった。
この地上にはたくさんの言語が存在する。
ダイダロスは最初、その本は太古に滅びてしまった地域の言語で書かれている書物だと思った。

しかし、神官の中にも誰もその本の中身を知る者は居なかった。
でも、好奇心は徐々に膨れ上がってゆく。
異国の本には何が書かれているのか?
こっそりと本を抱えて、教皇に会いに行こうとした。
博識な教皇シオンならば、何かこの本の読み方を知っているかもしれないと思ったからである。
だが、教皇の間に居た男の小宇宙は、まったくの別人だった。

相手に悟られない様に、その場を立ち去った。

この時から、自分の中で自制心と言うものが効かなくなった様に思える。
教皇の間に居て、教皇シオンのふりをしている正体不明の男をどうやったら倒せるのか?
あの気配は尋常ではない力の持ち主である事を、雄弁に物語っている。
だが、そんな事を誰かに言えば、真っ先に自分は消されてしまう。
自分だけではない、聞かされた人間も同じ運命だろう。

(強くなって、いつか……)

最初はその気持ちが全てだった。
だが、後日アンドロメダ島へ行く事になり、そして弟子を取る様になった時、自分の中で正義は歪んだ姿を見せ始めた。
きっかけは、やはりあの本。
無関心を装いながら調べていくうちに、その本は聖闘士たちには関係のないはずの、呪術に関する事が書かれている本である事が判ったのである。