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続・嫉妬 1

アイアコスは再び自分の冥衣が何かに引き寄せられている事に気がついた。
この冥衣が自分をここへ連れてきたのである。 ならばもう一度、ガルーダの冥衣の思うようにさせようと考える。 その時、彼の耳にとある声が聞こえた。
それは冥界で罰を受けている亡者たちの声にも似ている。

アスクレーピオスを捕らえて、地上への復活を果たす……。

(あのアスクレーピオスが居るのか!)
アイアコスはこの時、自分が何故ガルーダの冥衣をまとう事になったのかを思い出した。
(そうだ。このガルーダはその宿命として多くの蛇を喰らう。
俺は蛇を呪術に使って死者を復活させようとする者たちを、倒さねばならない)
神話では医術に長けたアスクレーピオスは、蛇の髪を持つ妖女メデューサの血を使って、多くの英雄を生き返らせた。
後にそれが生と死の道理を侵すと言う事で、医神アスクレーピオスは大神ゼウスによって殺されたのだが、その呪術を復活させようとする者が後を絶たない。
それ故に冥王は三巨頭の一人の冥衣を異国の神鷲にしたのである。
これなら不届き者がいくら力をつけようとも、ガルーダは影響を受けない。
力の性質が違い過ぎるのと、その圧倒的なパワーの前に人間の方が太刀打ち出来ないからである。
そして彼はその力の全てを使って、術媒体の蛇を滅する。
(アスクレーピオスが居るというのなら、倒すまでだ)
彼は目を瞑ると神経を研ぎ澄まし、目には見えない気の流れを読み取ろうとした。
冥衣が向かおうとする方向を、漠然としたものではなく確実なものにしたい。
そうでなければ、何かに間に合わない気がしたのである。
(そこか!)
空間の裂け目のような気配を感じると、アイアコスはガルーダの翼を広げた。


声の主は自分にとっての正当な理由を守り、他者の意見を聞く事なく排除し最初から無かった事にする。
ミロは内側から自分を支配しようとするその声に抗おうと試みる。
だが、声の主はミロのそのような行動を嘲笑った。

『オ前ハ闇ニ生キル者ダ……。』

(俺は……)
光に生きる者ならば、何故真実が見えなかったのか。
アテナに反逆したのは、サガだけではない。
真実を見ていなかった自分たちもまた、反逆者ではないのか。

(俺は本当に光をまとうに相応しい者なのか?)
ミロの周囲に黒い霧が漂う。そして霧は黄金聖衣に付き始めた。