INDEX

嫉妬 7

デスマスクは絶えず聞こえてくる亡霊たちの叫びに、いい加減うんざりしていた。
「同じ言葉を何度も何度も繰り返しやがって……。
そんなにもトロイアの王子に恨み言を言いたいのなら、相手が生きているうちに言え」
彼は自分に付きまとう黒い霧を振り払う。
「しっかし、ギリシャ側とトロイア側が一緒に此処に居るとは煩い場所だ」
亡霊たちは何かに捕らわれているのは判るのだが、何が原因なのかは判らない。
判っているのは、彼らがトロイア戦争に参加した兵士たちだという事である。
(神話時代の戦争に参加した奴らをこんな所に閉じ込めて、あの男は何をしようって言うんだ?)
そもそも、このような方法は呪術的な要素が強いので、聖闘士であるサガには使えない筈である。
(ポリュデウケースって奴は、面倒な奴だな)
ふとデスマスクは足を止める。
(シュラの奴、呪術なんてもの全然知らねぇんじゃないのか?)
そう考えながらも、彼は引き返したりはしなかった。

その頃、暗黒の白羊宮で展開されている二人の闘士の戦いは、山羊座の黄金聖闘士の一方的な攻撃が続いていた。
しかし、ポリュデウケースは防御のみで攻撃する気配が見えない。
だからと言って自分の前にその身をさらすと言う事もしない。紙一重のところで相手は攻撃を避けていた。
(何を考えている)
シュラは再び右手を構える。
すると暗黒の闘士は少し安堵した様な表情をする。
「……やはりお前はヤツとは違うな。
否、あいつらがこの時代にいると思った事自体、考え過ぎだったのだろう……」
「何っ!」
その時シュラは、目の前の男が見ているのは自分ではない事に気がつく。
「……少々懐かしさに引きずられたが、私にはやらなくてはならない事がある。
山羊座、お前には大人しくなってもらうぞ」
そう言ってポリュデウケースは右手をあげる。
「では、今度は全力で妨害させてもらう」
シュラの言葉にポリュデウケースは楽しそうな笑みを浮かべた。
「なるほど、私が逃げるのを警戒して力を押さえていたというのだな。
良かろう。
ならば太古の神々の血族、スフルマシュの主よ。 お前がどれ程、その聖衣を支配しているか見せてみろ」
その言葉にシュラの黄金の聖衣が強く輝きだした。