INDEX

嫉妬 6

ミロの目の前で世界はガラスが砕けるかのように壊れていき、その背後に真っ暗な世界が顔をのぞかせる。
声は言う。お前の心は闇に染まりやすいと。
「ふざけるな! 姿を見せろ」
彼は天を見上げる。
その空には暗黒が満ち、禍々しさが漂っていた。

声は再び告げる。
お前は光の中に潜む闇だ。真実を見つめろと。

風がミロの身体を通り過ぎる。
その時彼の脳裏に、とある場面が現れる。
自分の前で倒れる見知らぬ少女。
『カストールは己の運命を呪うがいい』
目の前の惨劇を笑っている自分の声が聞こえた……。


テッサリアのラピテース族は昔からケンタウロス族とは敵対関係にあった。
原因はその地の支配権問題であったが、長きにわたる争いは王であるペイリトオスの婚礼の時に一気に爆発した。 ケンタウロス族が婚礼の時に急襲したのである。
だが、この時ペイリトオスは親友のテーセウスと共に戦いケンタウロス族を撃退したのである。
これが人々に伝わり、二人の名は素早く他の国にも伝わった。
そして人々は二人の事を称賛する。 だが、ペイリトオスは一つだけ不満があった。
親友のテーセウスは女神アテナの加護を得た英雄と言われるが、自分についてはラピテース族の王と言うだけで、大神ゼウスの息子であるというのにディオスクーロイとは決して呼ばれない事だった。
それでも大神ゼウスを父に持つ他の英雄たちですら、その名で呼ばれる事は無かったので、自分としては不満はあったが爆発する事はなかった。
今は呼ばれなくても、もっと力をつけてもっと名声が高まれば、きっと人々は自分の事をディオスクーロイと呼ぶだろうと思っていたからである。

しかし、後にペイリトオスは知ってしまう。
スパルタ王家の二人の息子であるカストールとポリュデウケースが、ディオスクーロイと呼ばれ人々から慕われているという事を……。
女神を母親にもつポリュデウケースが呼ばれるのは、認めたくはなくとも相手が神ゆえに納得せざるを得ないが、カストールは大神ゼウスの子供ではないかと噂されるだけで、父親は人間であるという話も聞く。
大神ゼウスの血に連ならないと言うのに、カストールがディオスクーロイと呼ばれる事で、ペイリトオスの怒りは年若い少年に全て向けられる事になった。

そしてこの不当な怒りは、彼らの師匠が賢者の誉れ高い半人半馬のケイローンであるという事実によって、さらに増したのである。